夏休みに読むべき本は紅楼夢?2008-08-14 09:15:59

 読むべき本はたくさんあろうに、最近の中学生はためにならぬ小説ばかり読みふけるとは、嘆かわしいことだ。
 いや、現在の中学生は小説すら読まず、「最近」とは、百年以上も前のこと。江戸風俗研究者にして東洋性心学会長であった岡本昆石が、明治36年(1903年)に発行された「近世百ものがたり」のなかに書いた話です。

 1906年6月号の「中央公論」の巻末に、「夏期学生の読物」なる特集ページが組まれた、と出久根達郎がエッセイに書いています。
 出久根達郎の文には書いていなく、詳細は未調査ですが、どうも同7月号にも特集の続きがあるようです。夏目漱石、泉鏡花など大家のエッセイリストに、それらしい痕跡が残っています。

 とりあえず6月号で言えば、幸田露伴は「俳諧七部集」「狂言」「謡曲」を薦め、柳田国男は「西鶴」「近松」「今昔物語」「日本霊異記」をあげたようです。
 露伴や柳田に限らず、当時の名士が推挙するのは、ほとんどが古典で、「吾妻鏡」「常山記談」「碧巌録」から、「枕草子」「万葉集」「新古今集」のようなスタンダート。近世の小説が少なく、「小説は学生が読むべき代物ではなかったのである。」(出久根達郎)
 はては「藩翰譜」なる大名の家系を記す本まで出てきます。

 そのなか、中国の小説「紅楼夢」を推奨した人がいたそうです。
 比べると、内容的には柔らかく、中学生にも受け入れそうなものか。

 とは言え、実はその頃、まだ翻訳が出ていなかったので、漢文をそのまま読む必要があります。当時の学生にとっても決して容易なことではないでしょう。漢文の読解力を勉強させたいのか、単に意地の悪い推薦書だったのか、結局、どちらかのでしょう。

コメント

_ 花うさぎ ― 2008-08-14 10:41:27

そうですね。中国文学の世界でも、小説は伝統的に詩などよりも下に位置づけられていますね。

今年の夏は、カラマーゾフを読み上げてしまおうと思っているのですが、あの小説に出てくる婦人たちの饒舌で空虚でしつこい会話が出てくるたびにうんざりしてページを閉じてしまいます。
その間に何冊も別の本を読みました。

以前から、あまりにもものすごい評判の「隣の家の少女」(ケッチャム著)を読もうと思っているのですが、昨日、本屋で見つけて最後の数ページを読んで吐気をもよおしてしまいました。
人生が変わるほどの衝撃だそうです。
いかがですか、Fujimotoさん。(私は読もうかどうしようか迷っているところです)

_ 花うさぎ ― 2008-08-14 11:02:38

上記のような本に言及しながら、言うのも何ですが、
「紅楼夢」って案外下品な箇所が多いように思えるのです。
当時の清く正しい青少年が読むのにふさわしいものだったんでしょうかね。

_ 月の光 ― 2008-08-14 13:01:22

1906年と言えば、明治後期大正の息吹が聞こえ始めたころ。
例えば、夏目漱石は1867年生まれ。彼のteenの頃は、明治20年以前となります。学生に勧める書物は自然と自身が学生の時に読んだ本となりやすい事を考えると、彼らの進める書物がそうなったのは、何ら他意があったとは考えずらいのでは?

_ 月の光 ― 2008-08-14 13:04:59

江戸時代の恥?後世に残すべきではない書物?に、「尤の双紙」があります。なかなか下品ですよ
(題名定かでないです)

_ xing ― 2008-08-14 21:53:08

「隣の家の少女」はお薦めしません。読み終わった後、本を見えない場所に隠してしまいました。「紅楼夢」を漢文で…。漢方薬や料理名を調べるだけで大変そう。

_ T.Fujimoto ― 2008-08-15 23:49:16

花うさぎさん、こんばんは。
確かに伝統的に、小説が詩詞より下、フィクションがノンフィクションより下、でしたね。
「文以載道」などと大上段に構えていると、小説なぞ、裨官野史なぞ、ということになってしまうのでしょうか。
小説自体の歴史が比較的に短いのも、なにより伝統を重んじる時代で、軽く見られた原因のひとつになったのかも知れません?

_ T.Fujimoto ― 2008-08-16 00:01:35

花うさぎさん、「隣の家の少女」は未読で、噂をちょっと聞いたことがありますが、あまり僕は読みたいとは思いません。
この年になって、暗くて重いものは嫌で、残酷ものも嫌で、梶原一騎の後期の劇画とか、いや、「ソドム百二十日」のあらすじを読んだことすら後悔してしまうぐらいです。
まあ、元々小説はあまり読んでいないですが。

_ T.Fujimoto ― 2008-08-16 00:10:41

月の光さん、こんばんは。
旧制中学生は、まあ、いまの高校生ぐらいだと考えて、自分がいまの高校生に薦めるとしたら、どんな本を挙げるのか、漠然に考えてみたが、なかなかこれというのが出てこなかったのです。
なるほど、その手があるのですか。明治の文学者たちも自身の学生時代に重ねて、自分が読んでためになった(?)書物を紹介したのですね。

#えっと、高校時代の夏休みは、なにかを読んだのかな...

_ T.Fujimoto ― 2008-08-16 00:18:19

月の光さん、「尤の双紙」はどんな書物ですか?まったく不案内ですみませんですが、江戸時代の小説でしょうか?
江戸時代も庶民文化が台頭した爛熟期以降、いろいろと荒唐無稽な戯作も出ていますね。実は、明るいものであれば、へんてこりんなもの、わりと好きです (^^;)

_ T.Fujimoto ― 2008-08-16 00:26:41

xingさんも、「隣の家の少女」はお薦めではないのですね。見えない場所に隠しても、棄てられないところが、ミソだったりします?

さて、「紅楼夢」ですが、僕も「teenの頃」に、最初の十数回あたいだけ原文で読みました。漢方薬や料理名は、まったく記憶にありません。
はい、いまご推測の通り、そんな難しい名詞が出てきても、まったく無視するだけだったと思います (^^;)

_ 月の光 ― 2008-08-16 20:12:52

当時の購入目録を見てみると、シェークスピアに始まって平井和正で終わってました。
そして、その頃チベットの高僧が書いたとされる本を読み中国への関心が始まりました。

_ chococo ― 2008-08-17 05:06:34

こんにちは。紅楼夢の推薦を見て実際に読んだ学生はどれぐらいいたのでしょうね・・・(^^;)私だったら、漢文はすぐにあきらめて漫画とか映像作品とかを探し始めるという邪道なやり方をとりそうです。全然関係のない話に変わって申し訳ありませんが、最近はホームシックで何もする気が起こらず困っています。さらに話題が飛んで申し訳ありませんが、先月、出張でほんの数日間、台湾に行きました。初めてでしたが、とても印象深かったです。マンゴーかき氷とタピオカミルクティーは本当に絶品でした!

_ T.Fujimoto ― 2008-08-18 00:24:11

月の光さん、こんばんは。
シェークスピアから平井和正までどうやって繋ぐか、間になにがあるかも気になりますな。
間にチベットの高僧が挟んでも、繋がりそうにないような気がしますが (笑)

_ T.Fujimoto ― 2008-08-18 00:30:44

chococoさん、こんばんは。
推測ですが、薦められたゆえ明治39年の夏に紅楼夢を読んだ中学生は、たぶん日本全国で一人いるかどうか、ではないでしょうか (^^;)

_ T.Fujimoto ― 2008-08-18 00:34:26

chococoさんが台湾に行かれたのですか?僕はもう何年も行っていないので、だいぶ変わったのでしょうな。

それと、重度のホームシックなら、我慢するよりは一度帰郷してみてはいかがでしょうか?
すみません、謎がいっぱいのchococoさん、いまの実家がどこなのかわからなく、適当に言ってみました。

_ chococo ― 2008-08-19 23:49:24

はい、そうですね。帰ります!

台湾は台北市と台中市に行きました。台北も大都会でしたが、台中もとてもきれいでした。T.Fujimotoさんもまた帰郷できるといいですね。

_ T.Fujimoto ― 2008-08-21 00:44:01

chococoさん、台北だけではなく、台中にも行かれたのですね。高校時代の親友が住んでいたのですが、一度も泊まったがなく、個人的にはほとんど記憶に残っていない町です。
そうですな、いつか遊びで訪ねてみたいと思います。

_ why ― 2008-08-21 20:19:14

紅楼夢を推奨する人がいたとはちょっと意外ですね。以前にも自分のところで書いたかもしれませんが、紅楼夢は日本では中国本土ほど評価されていないようですね。
先日、仕事で出版文化に関連する学術会議に出席してきましたが、いろんな国の人たちが、中国の明清小説や、四大奇書などを取り上げて、研究成果を発表しました。しかし、紅楼夢を取り上げる人は一人もいませんでした。やはり外国人からしてみれば、紅楼夢のような内容は辛気臭いでしょうかね。

_ hanausagi ― 2008-08-21 23:28:45

紅楼夢は、私にとっては、辛気臭いというより、誰にも感情移入して読めないですよね。
宝玉は最初と最後では別の人のようだし、話全体も、ロマンチックかといえば、そうでもなく、変に現実的だったり、下品だったりするし。

結局、本屋で手に取りましたが、「隣の家の少女」は買いませんでした。
私の場合、最近読んで後味が悪かった本といえば、「闇の子供たち」でしょうか。この本も見えないところに放りこんであります。

_ sharon ― 2008-08-22 07:19:18

今思えば、
紅楼夢もいろんなバージョンが買ったけど、最後まで読み終わったことが一度あったかしら?
いつも最初の石のところを飛ばしながら恋愛の部分ばっかり読んでいた気がした。

_ xing ― 2008-08-22 19:02:10

whyさん、もしかして仙台での学術会議でしたか?最近は「紅楼夢」の研究者は日本では少ないようですね。以前、「葬花」の舞台を見ていた華僑のおばあさんが泣いていたのが、印象的でした。

_ sharon ― 2008-08-22 19:09:48

すみません、恋愛の部分ばっかりではなく、下品なところばっかりを読んでいました。
はい。

_ why ― 2008-08-22 21:03:49

xingさん、そうですね。この間の仙台会議でした。もしかしてxingさんも出席されましたか。
私は三言二拍の話を聞きながら、xingさんの得意分野なんだな、いらっしゃればいいなと思っていました。
(しかし、あんなに難しい会議、未だに思い出すだけで恐ろしくて、身震いします。どうにか理解できたのは結局三言二拍と四大奇書の話だけでした。)

_ T.Fujimoto ― 2008-08-23 11:33:41

whyさん、紅楼夢を推奨する人がいたのは確かに意外でしたね。調べてみると、岩波文庫の訳本より三十数年古い時代、やはり原文で読まれたのでしょう。
それにしても、whyさんは本当にいろんな仕事に行かれていますね。
明清は戯曲や章回小説がたくさん出ていて、なるほど、中国本土と日本あるいは西欧諸国で評価が違うものもありますね。そういえば、「十二楼」とかは、海外でもより有名だと聞いたことがありますが。

_ T.Fujimoto ― 2008-08-23 11:38:35

花うさぎさん、紅楼夢は、当時の貴族の生活を細かく描き込んでいるところに、文化史的な価値がありますね。
「闇の子供たち」は、なんでしたっけ?
いまgoogleしてみたら、映画化したものがいま公開中ですな。全然知りませんでした。

_ T.Fujimoto ― 2008-08-23 11:43:07

sharonさん、いろんなバージョンを買われたのですか?(笑)
僕も小さいとき、姉の持っている「紅楼夢」をちょっとだけ読んだことがありますが、たぶん十数回あたりで断念しました。当時の僕には(いまも?)、三国演義や水滸伝のほうが断然魅力的でした。

_ T.Fujimoto ― 2008-08-23 11:48:52

xingさん、こんにちは。
「紅楼夢」の研究は、「紅学」とも呼ばれていますよね。確かに台湾にいた頃は、普通に新聞を読んでも、文芸欄にも度々出てきます。まあ、日本での源氏物語研究みたいなものでしょうか?
黛玉葬花の名場面、映画とかでもよく見かけますが、どうですかね。確かにセンチメンタルですが。

_ T.Fujimoto ― 2008-08-23 11:53:28

sharonさん、ふふ、下品なところがご趣味ですね (^^;)
科挙方面の勉学を批判し、恋愛小説や男女の機微を言い表す詩をよしとする作者、下品なところを含めて、本作品の神髄であるかも知れません?

_ T.Fujimoto  ― 2008-08-23 11:56:25

whyさん、難しい会議でお疲れさまでした。
三言二拍は、xingさんの得意分野ですか?三言はどれとどれとそれでしたっけ?二拍は?ありゃ~、本当にひとつたりとも思い出せません...

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://tbbird.asablo.jp/blog/2008/08/14/3690068/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。