昭和最後の名勝負(3)2007-08-17 10:14:29

 クライマックスへ向かうまでのストーリーが完璧でも、結末が期待外のアンチ・クライマックスになることが、多々あります。

 例えば、兄弟そろって無敵な快進撃を続けていた1994年の前半。巷で兄か弟かの論争が起き、だれもがビワハヤヒデとナリタブライアンの初対決を期待して待っていが、直前にお兄さんに故障が発生して、早めの引退で夢の対決は夢のままに終わりました。

 メジロマックイーンとトウカイテイオーが初めて、かつ結果的に唯一対戦した1992年の天皇賞・春も、双方前哨戦を余裕でクリアするまでは完璧な盛り上がりでしたが、本番ではテイオーが案外な走り(後に故障発生)で馬群に沈み、いくぶんがっかりした結果となりました。

 しかし、天皇賞におけるタマモクロスとオグリキャップの芦毛対決は、結果までもが他馬を置き去りにする、きれいなワン・ツー・フィニッシュでした。
 いつも後方から追い込む競馬をするタマモクロスが、早めに2番手にあがる展開は意外でしたが、直線追い上げてくる年下のライバルを完璧に退け、古馬の意地を見せた走りは、素晴らしいと褒め称えても褒め足りないぐらいのものです。

 次のジャパンカップ、勝利こそ名手マッキャロンが騎乗したアメリカのペーザバトラーにを奪われましたが、2着タマモクロス、3着オグリキャップ、その着差は天皇賞とまったく同じ1馬身と1/4でした。


 オーナー歴50年して初のGI馬と持ったオーナーの意向で、有馬記念後の引退が決まったタマモクロスに、オグリキャップがリベンジできるチャンスは、その有馬記念だけとなりました。

 一方、負けじと、同世代のサッカーボーイも復活して挑んできました。

 函館記念のあと、軽い脚部不安に再び襲われ、菊花賞を断念しましたが、3ヶ月ぶりのレースとなるマイル・チャンピオンシップで、サッカーボーイはまたも目の覚めるような強烈なパフォーマンスを見せました。
 「サッカーボーイ先頭に立ちました!」「後続を引き離すか、離した!離した」「3ヶ月半ぶりも、8キロ太めでも関係なし。これは恐ろしい馬です!これは恐ろしい馬です!」と杉本アナが驚き、「天才少年!強烈シュート!」と翌日のスポーツ紙がかきかて、いよいよ昭和最後の名勝負、そのお膳立ては完了しました。


 昭和最後のGIレース、第33回有馬記念は、関西馬3頭が単枠指定される事件的な盛り上がりのなか、幕を上げました。

 中間に飼い食いが細くなり、状態が心配された繊細なタマモクロスは、それでも最強馬の誉れで、単勝1番人気を死守しました。
 対して、連戦の疲れもなく、中山までスクリーングまで敢行し、翌秋の6連戦を待たずにそのタフネスぷりを誇示したオグリキャップは2番人気。
 関東エリアでいい走りができていなかったサッカーボーイは、体調を整え、虎視眈々の3番人気でした。

 レースでは、初めてオグリキャップに跨った岡部騎手が中団よりやや前に位置取りし、サッカーボーイは後ろから2番手、タマモクロスは最後方からレースを進む形となりました。
 やはり坊間で噂されていたように体調が不十分だったのか、と見ていたら、タマモクロスは3コーナーを過ぎると、大外から捲ってきて、淡々と進んでいたレースが一気に動きました。

 好位から楽な手応えで抜け出してきたオグリキャップは、そこで後方から追い上げてくるライバルを待ち、そして追い出しました。
 クビを伸縮する独特なフォームで捲るタマモクロス、直線で外から差すサッカーボーイと、真ん中を割る菊花賞の勝ち馬スーパークリーク。

 短くもスリリングな時が流れ、後続の追い上げを絶ったオグリキャップがついに、念願のGI初制覇を果たしたことになります。競馬史上最も「劇的」なサラブレッドになるオグリキャップ、その第1章はハッピーエンドで終えることが出来ました。

 35秒5であがったオグリキャップとサッカ-ボーイに対して、35秒2で2着に割り込んだタマモクロスの意地と貫禄。
 あとにまたも故障が発症し、結果的に、種牡馬入りを宣言していたタマモクロスと同じく、最後のレースとなった3着のサッカ-ボーイ。
 実は3番手にゴールしながらも、斜行によって失格とされた、のちにタマモクロスに次ぐ天皇賞連覇を果たし、オグリキャップの新たなライバルとなったスーパークリーク。
 すべてがドラマ仕立て、筋書き通りに進んだようにさえ感じた、昭和の競馬のクライマックスでした。

コメント

_ 小白 ― 2007-08-23 14:26:58

この所、馬インフルエンザで日本競馬界ばたばたしてるみたいですね。
(競馬の事は全然詳しくないけど、最近T.Fujimotoさんの影響か気になります)。

オグリキャップとかメジロデュレン(だったかな)、この時代は、ちょっとだけ中山競馬場にいったことあります。

_ T.Fujimoto ― 2007-08-24 00:04:29

馬インフルエンザでJRAがドタバタしてますね。
もっとも地方競馬は元気で続いていて、道営のブリダーズゴールドカップなどは、JRAから出走予定の4頭だけ取り消して、レースはそのまま行われました。
まあ、今週末はJRAも再開するようで、とりあえずはよかったと思います。競馬のない週末が続くと、僕などは生活リズムが狂ってしまいます (笑)

メジロデュレンは、タマモクロスより1歳年上の菊花賞馬ですね。僕が競馬を見るようになった昭和63年では、新聞で「穴党のアイドル」だと書かれ、穴人気になったりしながらも、結局勝ち鞍はなかったと思います。
直前の年の有馬記念は人気薄で勝って、ユーワジェームスとのゾロ目馬券が万馬券になっていたようです。ユーワジェームスの「ユ」とメジロデュレンの「メ」で、夢馬券だと、誰かがうまいことを言ってましたが。

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