亀の話(2)2011-07-27 13:01:45

 亀の特徴は何かと聞かれたら、僕に限らず、まず頭に思い浮かぶのは、長寿であること、足が遅いこと、それに背中の甲羅が硬いこと、この3つではないでしょうか?


 亀は動きがのそのそして足が遅いと、イソップ物語の「ウサギと亀」などから、我々は小さいときから頭に叩き込まれています。
 ところが、日本の淡水で生息する亀をよく観測すると、意外に陸をかなりの速度で歩きます。特に沼や池が近くにあるのに気づくと、飛び込むように走ったり、俊敏だと言えるほどです。

 どうやら本当に足がとりわけ遅いのは、日本では見かけない、陸亀の仲間たちです。ヨーロッパの人たちと亀の話をしても、彼らの頭に思い浮かぶのは、たいがいはこの陸亀のことらしいです。

 もっとも亀の足が遅いと思っているのは、古代の中国人も同じです。「荀子」の修身篇に「故蹞歩而不休、跛鼈千里、累土而不輟、丘山崇成」という言葉がありますが、ゆっくり歩いても、休まず続けば、千里の遠きにも到達することができる、という意味ですが、鈍足の代表選手として例に出されているぐらいなので、その認識は東西共通だったかと思われます。


 では、動きの遅い亀たちはどのように身を守るかと言えば、やはりその甲羅の硬さをまずあげなければならないでしょう。

 むかし、「Age of Empire II」というリアルタイム・ストラテージゲームに熱中していた時期がありました。民族に「朝鮮」を選んでプレイすると、固有ユニットとして、2頭の馬が引く馬車とともに、「亀甲船」という船が使えます。
 豊臣秀吉の侵攻軍に対抗し、迎え撃つ全羅水軍節度使・李舜臣が率いる船隊にいたのがこの亀甲船です。厚い木材によって守られる、要する装甲船でした。ソウル・オリンピックの記念硬貨のうち、もっとも額面が高い金貨には、この亀甲船がモチーフにデザインされているようです。侵攻への抵抗、そして勝利の象徴として、半島の人々にとって、いかに誇らしいものであるかが伺えます。

 時は下って、アメリカ独立戦争の時代に、戦争に使われた最初の潜水艦として名前が知られているのが、Turtle号です。
 乗員はこの小さな亀に乗り込み、英国側の旗艦イーグル号の船底にドリルで穴を開け、火薬を詰め込んで爆発させる、というのが作戦だったようです。残念ながら、銅版に覆われた船の装甲を貫通できなかったためか、作戦は失敗に終わったそうです。

 船ではないですが、古代ローマ時代には、ラテン語でTestudoという兵器があったそうです。例えば、ガラパゴス諸島のゾウガメの学名は「Testudo elephantopus」というから、敵の城壁まで兵士を運ぶのに使われたTestudoは、言ってみれば「亀」というふうに呼ばれたものです。
 「Age of Empire II」に登場している「破城槌」というユニットも、屋根がつき、装甲が厚く、歩兵をしのばせることができます。Testudoもたぶん、そのような移動亀甲小屋ではないかと想像しています。


 例外もあります。
 知られているように、スッポンは甲羅表面が角質化していないので柔らかいです。スッポンは主に東アジアに生息していて、ヨーロッパにはないので、英語などにもスッポンを表す適切な表現がなく、仕方なく、「甲羅の柔らかい亀」(ソフト・シェル・タートル)だと言ったりそうです。
 日本の政治家や財界人が向こうの人に向かって、「月とスッポン」だと高笑いしながら言っても、通じるかどうかは怪しいです。