ムムタズマハル(Mumtaz Mahal)2007-11-01 00:45:46

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 山野浩一さんの名作「伝説の名馬」は、ムムタズマハル(Mumtaz Mahal)を歴史的な名馬100選に入れています。
 一見奇抜のようにも感じますが、繁殖成績や後世への影響を加味すれば、なるほどと頷ける見地と選択です。

 しかし、次のような記述は、博覧強記を誇る山野先生にしては、ちょっとしたボケ(?)だったかも知れません。

 「ムムタズマハルという馬名はアガ・カーン殿下の母国のウルド語で "名高き宮殿" を意味するが、あるいはムムタズ宮殿という名の宮殿があるのかも知れません。」

 中学生の歴史の教科書か参考書あたりにも載るかと思いますが、タージ・マハルとは、ムガール帝国五代皇帝シャー・ジャハーンが、その愛する皇妃「ムムタズ・マハル」の死を悼んで建てた、イスラム建築の粋を集めた墓廟です。
 そもそも、「ムムタズ」がつまって、「タージ」という愛称になったとも言われています。


 写真は、妹尾河童氏の「河童が覗いたインド」という文庫本です。

 この本は、全編が作者の手による精密画と手書き文字によって構成され、まさしく愛すべき労作です。
 前作の「河童が覗いたヨーロッパ」も所持していますが、絵はもうちょっと荒く、素朴な感じでした。それはそれでよかったのですが、やはり「インド」のほうが、迫力が倍増しています。
 絵だけではなく、インドの地べたを這うようにして書かれた記述も含めて、抜群な面白さです。

 本のカバーを飾っているのは、見ての通り、あの美しいタージ・マハル。 高さが67メートルもある、白大理石の大宮殿です。

 たった一人の女性のために建てた墓にしても、あまりケタはずれにスケールが大きかったのですが、そこは当時隆盛を極めていたムガール帝国の最高権力者、毎日2万人を動員して、22年間かかった大工事だと言われています。
 それに、このシャー・ジャハーンは、どうやら長城や阿房宮を建てた秦の始皇帝にも負けないぐらい、かなりの建築狂であったらしく、アグラ城の宮殿、デリーの城となかの宮殿など、あたらと建てまくったそうです。


 ムガル帝国と言えば、「中央アジア歴史群像」 (http://tbbird.asablo.jp/blog/2007/05/04/1483287)にも書かれていますが、チムールから数えて5代目の孫、バーブルがインドの地で創設したイスラムの王朝です。
 ムガルは、中央アジアの言葉で「モンゴル」の意味だそうで、なるほど、中央アジアの英雄(暴君?)チムールも、5代目の先祖はモンゴル人だったそうです。

 タージ・マハルを見ても、われわれの多くは、ただその美しさに感嘆の声を発するぐらいでしょうが、モンゴル、ウズベク、インド、実に多くの歴史や興亡の流れが、その混沌の大地に生きてきたものですね。


 いつものように脱線しがちですが、馬のほうのムムタズマハルに話を戻しますと、これは、確かに素晴らしい名馬に数えられるべきサラブレットです。

 手元の「Biographical Encyclopaedia of British Racing」(Macdonald and Jane's Publishers Ltd, 1978)では、以下のように紹介しています:

 「Popularly known as 'the Flying Filly', Mumtaz Mahal was one of the fastest two-years-olds ever seen on an English racecourse and captured the imagination and affection of the racing public in a remarkable way.」

 2歳、3歳時のみ走り、合わせて10戦7勝の競走成績は、歴史的名馬というには実績がやや劣るほうですが、その瞬間的なスピードは、過去のどの馬にも見られない驚異的なものがあったそうです。

 引退後、アイルランドとフランスで繁殖生活を送り、現代のスピード競馬の主流ラインを築くぐらいの大成功を収めましたが、第2次世界大戦が始まり、ナチス軍がフランスに侵攻すると、すでに高齢となったムムタズマハルも、ドイツの管理下に置かれました。
 戦争が終わり、繋養されていたマリラヴィユ牧場が、元オーナーのアガ・カーン殿下の手に戻ったときに、すでにムムタズマハルの姿はなかったそうです。

 ここでも、人間の歴史や興亡の大きな流れが、否応なく個体の運命を動かしていたような気がしてなりません。

コメント

_ MOUSE ― 2007-11-01 09:53:56

アハハ!!!! あっ、スミマセン!!! だって、いつものごとくまたお馬さんの話になってるから。そこがfujimotoさんの素敵なところでもあります。
家にもこの本、あります。ところでこんなに大量の本をどう管理していらっしゃいますか?父の実家には父の兄(教授なのです)専用の『本のお倉』が建っています!もしかしてfujimotoさん家も???

_ T.Fujimoto ― 2007-11-02 05:18:46

mouseさんも妹尾河童の本をお読みになってますか?いいですよね。あのような旅日記を書ける人、尊敬しちゃいます。

ちなみに家には、それほど大量に本を置いてはいないですよ。普通の本棚が1つとカラーボックスが2つぐらい(ほかにダンボルが1箱...)

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