誤植2012-02-21 00:30:00

 台湾で小学生をやっていた頃、「新学友」という出版社から出ている参考書を使っていました。われながらよく覚えているなと思いますが、参考書の片隅に、確かに「一字十金」と題する告知が掲載されていました。
 なんのことはなく、誤字脱字を見つけてくれたお友達に、10元の奨学金(お小遣い?)を贈呈する、というだけの話です。四字熟語の「一字千金」から取ったタイトルかと思いますが、古人に比べるとだいぶケチったものです。
 この欄のタイトルが誤字で、「十」ではなく、「千」が正しいだろうと、よほど葉書を出したかったのですが、我慢しました。


 古い話をいまさら思い出したのは、出久根達郎の随筆を読み直しながら、です。
 明治30年ごろの話ですが、報知新聞で誤植探しの懸賞を出したことがあるそうです。暮れの一ヶ月間、毎日の紙面に一字ずつ、わざと誤植して読者に当てさせました。一等の賞品は女物の帯一本だったとか、一ヶ月間の誤字をすべて探させるので、ずいぶんと気の長い懸賞でした。
 しかも本文にではなく、誤字を仕掛けたのは広告欄のなか、読者は目を皿のように広告欄を隅から隅まで読み、広告主も喜んだようです。


 しかし、このようなクイズを出せるのは、ほかに誤植がないという自信があるからでしょうか?
 当時の新聞は誤植が多かったようです。
 明治32年5月24日の「読売新聞」など、「無能無智と称せられる露国皇帝」なる文が「社説」に載りました。「全能全智」の間違いだと、後で訂正されました。

 「箱根用水」などを書いた作家のタカクラ・テルは、元々高岡輝の名前を使ったが、高岡褌を誤植され、腐ってカタカナにしたと聞きます。


 いや、とても人のことは言えませんが、昔に限らず、現在だって書籍、雑誌には誤字、脱字がいっぱいあります。

 最近話題になった誤植と言えば、講談社現代新書の「落語論」を挙げなければなりません。
 「『大相撲』の始祖は、谷風梶之助である。 天明寛政(註1)年間の力士である。それ以前の最初の三人の横綱、 明石志賀之助、綾波レイ、丸山権太左衛門、 は架空の横綱である」 なる記述があります。

 もちろん「綾波レイ」は「エヴァンゲリオン」の登場人物で、第二代横綱の名は「綾川五郎次」です。
 とんでもない誤植ですが、「綾」と入力するだけで「綾波レイ」と出るようにワープロに単語登録したのでしょうか?

 「大正天皇」を「大正洗脳」と誤って印刷して、発売中止になった週刊誌もあったようです。
 「神のみぞ知る」を「神のみそ汁」としてしまったゲーム誌も、確かに見かけました。

 すごいことに、「間違い探し」のコーナーで、誤ってまったく同じ図を2つ出してしまった雑誌もあったそうです。どこに間違いがあるかと頭をひねって悩んだ人もかなり悲しかったのですが、どこにも違いがないはずの図から7つも間違いを見つけてしまった人は、もっと悲しかったかも知れません。


 最近の本に正誤表付きのものが減っているのは、誤植がなくなったのではなく、体裁が悪いと、著者も出版社も思ったからかも知れません。

コメント

_ 蓮 ― 2012-02-23 00:52:04

いつもながら愉しく読ませていただきました。
パソコンのいたずらによる誤植よりも昔の誤植のほうが個性、知性が感じられて面白いかも知れませんね。

_ 花子ママ ― 2012-02-23 09:57:19

>「千」が正しいだろうと、よほど葉書を出したかったのですが、我慢しました。
きっと出版社は自信がなかったんでしょうね、一字が千金ほどの価値があるかってとこで。それで「十金」としたとみればfujimotoさんが我慢したのは正しかったと思います。
大正洗脳、これじゃ非国民ですよね。
7つの間違い探し、この話しは読み手をも悩ませますね。

_ T.Fujimoto ― 2012-02-24 01:13:05

蓮さん、こんばんは。
綾波レイには驚かされましたが、パソコンのいたずらは、ほとんど同じ発音の誤変換ですね。確かに昔の誤植は、誤植のパターンが多く、個性が感じられたような気がします。

_ T.Fujimoto ― 2012-02-24 01:21:30

花子ママさん、こんばんは。
本文にも10元の奨学金うんうんとありましたので、タイトルはあえて「十金」にしたのは、その通りなのでしょう。千金を出すほどの自信がなく、安価で読者に校正をしてもらったようなものです。
7つの間違い探しの話、僕は実際見たものではありません。誰かの随筆で読んだ話ですが、出所を忘れてしまいました。

_ gotozrx ― 2012-02-28 08:59:47

こんにちは。
「失敗は成功の墓」など、いろいろと楽しい誤植があるそうです。
「誤植読本」という本、笑えますので是非読んでみて下さい。

_ T.Fujimoto ― 2012-02-29 07:47:10

gotozrxさん、おはようございます。
失敗は成功の墓、なるほど、通じなくもないですね。「誤植読本」は未読ですが、作者の高橋さん、名前だけは知っています。そのうち読んでみたいと思います。
ご推薦、ありがとうございます。

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