思いかけない再会 ― 2008-07-04 23:00:43

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出久根達郎の「逢わなばや見ばや」(講談社文庫)を読んでいると、次のような文章に出会しました。
「乱読の面白さは、かつて読んだ本のなかに出てきた人物や事柄と、まったく思いもよらない別の書のなかで、偶然に行き会うことだった。」
なるほど、と思いました。
教科書だけとか、ひとつの本だけ読んでも覚えられない事柄が、別の本でたまたま再会すると、なぜか親しみが沸き、容易に覚えられてしまうのは、僕にも経験があります。
この思いかけない再会が、おもしろいです。
例えば、山野浩一の「伝説の名馬 Part IV」(中央競馬PRセンター)の、その「ニジンスキー(Nijinsky)」の章では、各節の見出しが「牧神の午後(ドビュッシー)」、「薔薇の精(ウェーバー)」、「春の祭典(ストラビンスキー)」などとなっていますが、何気なく、かのワスラフ・ニジンスキーのレパトリーです。
気付いたのは、「パリ 一九二〇年代 シュルレアリスムからアール・デコまで」(渡辺淳、丸善ライブラリー)を読んだときです。
作者は、セルゲイ・ディアゲレフが率いるロシア・バレェ団(バレェ・リュス)が約百年前にパリで巻き起こした旋風を、文化的に重大な出来事として捉え、何ページも渡ってこのバレェ・リュス、そしてワスラフ・ニジンスキーについて記しています。「この盛名が何よりも、(略)、ワスラフ・ニジンスキーが、ダンスそのものをみずみずしく具現化していたからだというのはほんとうだろう。」
演目の、ドビュッシー作曲の「牧神の午後への前奏曲」、ストラビンスキー作曲の「春の祭典」なども、言及されています。
「パリ 一九二〇年代 シュルレアリスムからアール・デコまで」を読んでいくと、ファッション・ジャーナリズムについて論じているところに、「ラ・ガゼット・デュ・ポン・ドン(おしゃれ雑誌)」なる雑誌を挙げています。
フランス語がからきしだめな僕が、それでもこの雑誌の名前が覚えられたのは、荒俣弘の「稀書自慢 紙の極楽」(中公文庫)にも、出ているためです。
荒俣弘は、「二十世紀初頭に奇跡的に生まれたポショワール刷りのファッション雑誌は、たぶん、すべてのモダン・デザインの理想郷だろう」と、実に絶賛しているのです。そして、「このポショワール時代のファッション雑誌を代表する刊行物が、一九一二~一九一五年、および二〇~二五年にかけて制作された『ガゼット・デュ・ボントン』だった。」
「稀書自慢 紙の極楽」は、作者が書物愛、美しい書を求めるうえでの悲喜劇を綴っています。その原点、ことの始まりはロード・ダンセイニ狂とも呼べる熱病にかかったこと、だそうです。
ロード・ダンセイニは、W・B・イエイツに見出された劇作家として日本に紹介されたが、当時では本国でさえほとんど忘れられた存在だったそうです。
ロード・ダンセイニは未読ですが、W・B・イエイツと言えば、あとで読んだ「ケルト妖精学」(井村君江、講談社学術文庫)で、大きく取り上げられた人です。
「ケルト妖精学」の第3章の題名が、ずばり「イエイツと妖精物語の蒐集」であり、アイルランドにおけるあらゆる種類の民間信仰の蒐集と編纂に尽力した人で、自らも物語と詩篇を残しています。
印象に残っているのは、本のなかに紹介されている、イエイツの墓石に刻んでいる詩(イエイツ作「ベン・バルベンの下」の一部):
Cast a Cold eye 冷たく見ながせ、
On life, on death, 生も、死も、
Horseman, passby! 騎馬の男よ、行け!
妖精学の第一人者である作者は、最後の「騎馬の男よ、行け!」を、イエイツが自分に対する呼びかけだと解釈しています。つまり、詩の前半に語られた、暁の空を駆ける騎馬の一群に加わって、永遠のフェアリー・ライドを行うのだ、ということです。
ここのフェアリー・ライド(妖精の騎馬行)は、「人・他界・馬 馬をめぐる民俗自然誌」(東京美術)を読むと、取り上げられています。The Wild Huntやニコウラス遊びに結びつけるだけでなく、日本の首切り馬との比較までしていて、おもしろいです。
出久根達郎の「逢わなばや見ばや」(講談社文庫)を読んでいると、次のような文章に出会しました。
「乱読の面白さは、かつて読んだ本のなかに出てきた人物や事柄と、まったく思いもよらない別の書のなかで、偶然に行き会うことだった。」
なるほど、と思いました。
教科書だけとか、ひとつの本だけ読んでも覚えられない事柄が、別の本でたまたま再会すると、なぜか親しみが沸き、容易に覚えられてしまうのは、僕にも経験があります。
この思いかけない再会が、おもしろいです。
例えば、山野浩一の「伝説の名馬 Part IV」(中央競馬PRセンター)の、その「ニジンスキー(Nijinsky)」の章では、各節の見出しが「牧神の午後(ドビュッシー)」、「薔薇の精(ウェーバー)」、「春の祭典(ストラビンスキー)」などとなっていますが、何気なく、かのワスラフ・ニジンスキーのレパトリーです。
気付いたのは、「パリ 一九二〇年代 シュルレアリスムからアール・デコまで」(渡辺淳、丸善ライブラリー)を読んだときです。
作者は、セルゲイ・ディアゲレフが率いるロシア・バレェ団(バレェ・リュス)が約百年前にパリで巻き起こした旋風を、文化的に重大な出来事として捉え、何ページも渡ってこのバレェ・リュス、そしてワスラフ・ニジンスキーについて記しています。「この盛名が何よりも、(略)、ワスラフ・ニジンスキーが、ダンスそのものをみずみずしく具現化していたからだというのはほんとうだろう。」
演目の、ドビュッシー作曲の「牧神の午後への前奏曲」、ストラビンスキー作曲の「春の祭典」なども、言及されています。
「パリ 一九二〇年代 シュルレアリスムからアール・デコまで」を読んでいくと、ファッション・ジャーナリズムについて論じているところに、「ラ・ガゼット・デュ・ポン・ドン(おしゃれ雑誌)」なる雑誌を挙げています。
フランス語がからきしだめな僕が、それでもこの雑誌の名前が覚えられたのは、荒俣弘の「稀書自慢 紙の極楽」(中公文庫)にも、出ているためです。
荒俣弘は、「二十世紀初頭に奇跡的に生まれたポショワール刷りのファッション雑誌は、たぶん、すべてのモダン・デザインの理想郷だろう」と、実に絶賛しているのです。そして、「このポショワール時代のファッション雑誌を代表する刊行物が、一九一二~一九一五年、および二〇~二五年にかけて制作された『ガゼット・デュ・ボントン』だった。」
「稀書自慢 紙の極楽」は、作者が書物愛、美しい書を求めるうえでの悲喜劇を綴っています。その原点、ことの始まりはロード・ダンセイニ狂とも呼べる熱病にかかったこと、だそうです。
ロード・ダンセイニは、W・B・イエイツに見出された劇作家として日本に紹介されたが、当時では本国でさえほとんど忘れられた存在だったそうです。
ロード・ダンセイニは未読ですが、W・B・イエイツと言えば、あとで読んだ「ケルト妖精学」(井村君江、講談社学術文庫)で、大きく取り上げられた人です。
「ケルト妖精学」の第3章の題名が、ずばり「イエイツと妖精物語の蒐集」であり、アイルランドにおけるあらゆる種類の民間信仰の蒐集と編纂に尽力した人で、自らも物語と詩篇を残しています。
印象に残っているのは、本のなかに紹介されている、イエイツの墓石に刻んでいる詩(イエイツ作「ベン・バルベンの下」の一部):
Cast a Cold eye 冷たく見ながせ、
On life, on death, 生も、死も、
Horseman, passby! 騎馬の男よ、行け!
妖精学の第一人者である作者は、最後の「騎馬の男よ、行け!」を、イエイツが自分に対する呼びかけだと解釈しています。つまり、詩の前半に語られた、暁の空を駆ける騎馬の一群に加わって、永遠のフェアリー・ライドを行うのだ、ということです。
ここのフェアリー・ライド(妖精の騎馬行)は、「人・他界・馬 馬をめぐる民俗自然誌」(東京美術)を読むと、取り上げられています。The Wild Huntやニコウラス遊びに結びつけるだけでなく、日本の首切り馬との比較までしていて、おもしろいです。
コメント
_ けいこ ― 2008-07-08 22:53:00
_ T.Fujimoto ― 2008-07-09 06:48:35
けいこさん、おはようございます。
民話や伝承の世界、僕などは限られた部分の、それも触りぐらいしか読めていませんが、とても奥が深くておもしろい世界だと思います。
日本人にも大家が多くいらしゃって、柳田国男、南方熊楠、金関丈夫の著作は、みんな読むとおもしろいと思いますよ。
民話や伝承の世界、僕などは限られた部分の、それも触りぐらいしか読めていませんが、とても奥が深くておもしろい世界だと思います。
日本人にも大家が多くいらしゃって、柳田国男、南方熊楠、金関丈夫の著作は、みんな読むとおもしろいと思いますよ。
_ けいこ ― 2008-07-11 00:10:14
さっそく図書館に予約を入れました。読んでみます。
_ T.Fujimoto ― 2008-07-17 00:31:09
けいこ様、遅くなりました。
僕もあまり読めていないですが、ご感想を、ぜひ教えてください。
僕もあまり読めていないですが、ご感想を、ぜひ教えてください。
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こちらに来るといつも思うのですが、Fujimotoさんって何者?ってね。
妖精学ってなんだろう?
「ケルト妖精学」の表紙、興味をそそられます。
首きり馬って何だろう?
調べていたら妖怪や怪異、あるいは民話伝説などと、なんだかとても面白い世界に迷い込んでしまいましたよ。
たしかにここはWonderLandです。