天地の大観至楽2007-06-22 00:11:32

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志賀重昴の「日本風景論」を最後までめぐると、巻末に短文があり、
瀟洒自在、淡泊功名の感じがよく出て、以下に写します。


 筑波山南、一犁の雨後、
 春はあまねし東西南北の村、紅霞二十里、
 元荒川の一水西北より来り、
 沖積平原の間を曲折し、
 水あるいは絶えあるいは流れ、
 沙鴎その最も暖き処に翔泳し、
 漁人艇を蘆芽三寸の辺に停めて四ッ手網を曳く、
 獲る所は何ぞ、フナ、タナコ、モノコ、はへ。

 両岸の楊柳、淡くして煙の如し、
 桃花その間より映発し、
 真個に一幅の錦繡画図。

 花外の茅屋数椽、
 就きて麦飯、筍蕨を烹さしむべし、
 一碗の渋茶を啜るもまた佳。

 嗚呼何にが故ぞ名奔利走の間に周旋する、
 栄々役々、以て人生を了らんとするか、
 この天地の大観至楽を如何せんとする。


(写真はかつて伊豆で撮ったもので、本文とは関係ありません)