【蔵書自慢】馬上集、放馬録 ― 2006-12-14 05:08:59

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今回は水谷温氏の「馬上集」と、走尾一三氏の「放馬録 科學随筆」の2冊をまとめて取り上げます。
「馬上集」は、昭和16年2月発行、となっています。
夏、神保町へ行ったときも、たまたま古書店で同じ本を見たので、この時代の本としては多く発行され、残っているほうかも知れません。
タイトルは史記の「馬上得之」から拾ってきたが、原典とは意味がまったく異なり、馬に関する漫文集である、とあります。
確かに、日本や中国の歴史上に出ている名馬、日本馬術の発達史、絵馬の話、はては馬頭観音や「馬を食ふの是非」まで論じているのだから、馬に関する話ということに一応集約しているものの、その範囲はかなり広いです。
特に興味深いと思っているのは、
・洋式馬術の先駆・佐久間象山が浪人に切られて死んだあと、その愛馬「王庭」は近藤勇の手に渡った話。
・佐々木が乗っていた「池月」は、梶原が乗った「折墨」より優れている、という比較を、源頼朝が両馬を渡した経緯から説いた話。
・戦時下の書物らしく、戦功表彰制度で陸軍省から甲功章として表彰された、秀光号、厚僕号、火貝号、藤旭号、株村号、という5頭の功労軍馬の話。
・神馬進献の起源や慣習について述べたあと、阿蘇山の放牧場に、生まれながらにして、神馬の四角を指定され、大切に保護される馬がいる、という話。
「放馬録 科學随筆」は、昭和19年2月発行、とありますので、上の「馬上集」より3年遅れて刊行された本です。
馬の話も含まれていますが、作者は自序で「正に馬の放馬に類する」とある通り、随筆、紀行文、回想録、「馬上集」にもまして内容は様々です。
科學随筆、というサブタイトルもついて、確かに時折科学らしい(?)話も織り交ぜているのが、なんだかおかしくて愉快です。
とりわけおもしろいと思ったのは、
・馬の教育と題し、馬を馴致を説き、馬の反抗意図を徹底的に撃砕するのは、1馬力以上の体力をも要し、実に大変である、そのあと、「気力の無い者は仮令叱咤激励してもなかなか能率的でない様である」と、元も子もない形で結んだのは笑えます。
・我々の常水中、1/6300に含まれている「重い水」は、H2Oなる分子式を持つ水の複合体である。2或いは3の原子量の水素と、17或いは18の原子量の酸素より作られ、理論上18種類の「重い水」があり、比重も1割方重く、沸点も百度を越える、と説いている話。
・台湾に向かう飛行(当時としては珍しい体験?)のなか、気温は約180米を上昇すると1度ずつ下がり、気温0度時空気中に含み得る水分の最大量は、1立方米に4.8キロ、うんぬんから、「微粒子の様な曲面を有する固体の表面に存在する液体の凝集圧」の方程式まで披露したあと、いきなり「片屋根の雪しどけゆく四温かな」と俳句を詠んだところ。
・絶食療法を人と馬の両方について、さんざん書いたあと、個々の人馬についてその適用は難しく、「腹八分目が最も実際的に的中公算の多い所である」と、またもどうでもよい結論で結んでしまった話。
今回は水谷温氏の「馬上集」と、走尾一三氏の「放馬録 科學随筆」の2冊をまとめて取り上げます。
「馬上集」は、昭和16年2月発行、となっています。
夏、神保町へ行ったときも、たまたま古書店で同じ本を見たので、この時代の本としては多く発行され、残っているほうかも知れません。
タイトルは史記の「馬上得之」から拾ってきたが、原典とは意味がまったく異なり、馬に関する漫文集である、とあります。
確かに、日本や中国の歴史上に出ている名馬、日本馬術の発達史、絵馬の話、はては馬頭観音や「馬を食ふの是非」まで論じているのだから、馬に関する話ということに一応集約しているものの、その範囲はかなり広いです。
特に興味深いと思っているのは、
・洋式馬術の先駆・佐久間象山が浪人に切られて死んだあと、その愛馬「王庭」は近藤勇の手に渡った話。
・佐々木が乗っていた「池月」は、梶原が乗った「折墨」より優れている、という比較を、源頼朝が両馬を渡した経緯から説いた話。
・戦時下の書物らしく、戦功表彰制度で陸軍省から甲功章として表彰された、秀光号、厚僕号、火貝号、藤旭号、株村号、という5頭の功労軍馬の話。
・神馬進献の起源や慣習について述べたあと、阿蘇山の放牧場に、生まれながらにして、神馬の四角を指定され、大切に保護される馬がいる、という話。
「放馬録 科學随筆」は、昭和19年2月発行、とありますので、上の「馬上集」より3年遅れて刊行された本です。
馬の話も含まれていますが、作者は自序で「正に馬の放馬に類する」とある通り、随筆、紀行文、回想録、「馬上集」にもまして内容は様々です。
科學随筆、というサブタイトルもついて、確かに時折科学らしい(?)話も織り交ぜているのが、なんだかおかしくて愉快です。
とりわけおもしろいと思ったのは、
・馬の教育と題し、馬を馴致を説き、馬の反抗意図を徹底的に撃砕するのは、1馬力以上の体力をも要し、実に大変である、そのあと、「気力の無い者は仮令叱咤激励してもなかなか能率的でない様である」と、元も子もない形で結んだのは笑えます。
・我々の常水中、1/6300に含まれている「重い水」は、H2Oなる分子式を持つ水の複合体である。2或いは3の原子量の水素と、17或いは18の原子量の酸素より作られ、理論上18種類の「重い水」があり、比重も1割方重く、沸点も百度を越える、と説いている話。
・台湾に向かう飛行(当時としては珍しい体験?)のなか、気温は約180米を上昇すると1度ずつ下がり、気温0度時空気中に含み得る水分の最大量は、1立方米に4.8キロ、うんぬんから、「微粒子の様な曲面を有する固体の表面に存在する液体の凝集圧」の方程式まで披露したあと、いきなり「片屋根の雪しどけゆく四温かな」と俳句を詠んだところ。
・絶食療法を人と馬の両方について、さんざん書いたあと、個々の人馬についてその適用は難しく、「腹八分目が最も実際的に的中公算の多い所である」と、またもどうでもよい結論で結んでしまった話。
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