【馬事爽論に書いた話】泳ぐ馬2006-11-11 23:35:46

 空を飛ぶ馬に続き、泳ぐ馬の話です。

 これも大昔、パソコン通信時代のNIFTY競馬フォーラム「馬事爽論」で書いた話です。
 内容はともかく、懐かしいですな。


 6階にある職場の窓からは海が見える。晴れる日には燦々とエメラルドブルーの色彩を輝き、これからの夏日の賑わいを迎えようとする。

 「4つ足の動物に溺れるものはいない」と人は言う。人間が泳げば、馬だってもちろん泳ぐ。プール調教などはとくにトレセンの日常風景と化している様子。
 もともと海の神ポセイドンはしばしば馬の姿で現れ、ギリシャ神話のペガサスも水の神と縁が深いと伝わられている。

 馬は好んで泳ぐかどうかは定かではないが、生命にかかわる危機が迫るときには驚異的な泳ぎを見せたりするらしい。

 「プーサン・3」に載っているラプソデーの話は悲しくも、印象深いものであった。
 昭和33年9月、前年の菊花賞馬ラプソデーは武藤厩務員とともに伊豆の温泉で鋭気を養っていた。だが不運なことに、神奈川県に台風22号が上陸して、狩野川を氾濫させ、伊豆の災害対策本部の発表による死者672名、行方不明192名というとてつもない大災害となり、39歳の武藤さんも残念ながら帰らぬ人となった。
 「プーサン」の記述によると、濁流に飲み込まれたラプソデーは、暗黒の恐怖のなかを4時間にわたって泳ぎ続け、全身に深い傷を負いながらも、ついに奇跡としか呼びようのない生還を果たしたという。

 佐藤正人さんの「蹄の音に誘われて」にはさらに奇跡的な話があるが、長くなるので、いったん切ります。

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 英国のグランド・ナショナルは不思議なレースである。障害レースの中では賞金も注目度も文句なしのNO.1だが、8歳以上限定のハンデ戦であるため、4マイル半を駆けるこの過酷なレースは格付け上、G3戦だと聞いている。
 それでも歴代勝ち馬一覧を見ると、19世紀のThe Colonel、チェトナムゴールドカップを5年連続制覇したGolden Millerや国民的英雄となったRed Rumなど、スティープルチェイスの名馬たちが顔を覗かせている。

 「蹄の音に誘われて」の中に、グランド・ナショナルのある勝ち馬に関する不思議な話が紹介されている。

 モファイ(Moifaa)は、1895年にニュージーランドで生まれ、明け8歳になっ た時はニュージーランドの障害の大レースのほとんどを勝っていたという。そして明け9歳になった1903年は、グランド・ナショナルを目指すべく、数千人もの人が集まった中で、英国に向かう船に載せられた。
 ところが、その貨物船は2日ばかり走った後、恐ろしい暴風雨に遭って沈没してしまった。乗組員は一人として発見されず、モファイもまた死んだと思われていた。

 数カ月後、ニュージーランドからほど遠くないある無人島の近くを船で通ったマオリ人の漁夫が、島から夜の微風にのって伝わる不思議ないななきに気がついた。好奇心に騒ぎ立てられた数人のグループが島へ行き、そして1頭の馬を発見した。やがて、その馬はモファイであることが判明された。
 船をも飲み込む風雨の中を、モファイがどのように泳ぎ、生き延びたかは、いまをもって謎とされているという。

 ニュージーランドに帰って、長い休養の後に再び調教を始めたモファイは1年遅れて、1904年のグランド・ナショナルに挑戦した。
 タフな障害を次々とまるで泳ぐように飛んでゆくモファイは楽勝して、この伝統あるレースの勝ち馬リストに名を並べた。

 ちなみに、モファイの父はナタトール、ラテン語で「泳ぐ者」という意味らしい。

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