少年小説の系譜2016-01-04 09:47:43

 大阪国際児童文学館による「日本の子どもの本100選(戦前編)」のタイトル一覧(http://www.iiclo.or.jp/100books/1868/htm/TOP-Year.htm)を見ています。

 知らない本も多いですが、福沢諭吉の「世界国尽」、西條八十の童謡、室生犀星の詩集、島崎藤村の童話集などと並んで、押川春浪の「海底軍艦」、平田晋策の「新戦艦高千穂」、吉川英治の「神州天馬侠」、大仏次郎の鞍馬天狗ものや江戸川乱歩などを選んでいるのが、楽しいです。
 つまり、大人が子供たちに読ませようとしたいわゆる「児童文学」だけでなく、元々少年向けエンタテイメントを志向した作品も多数入っています。


 いま「ライトノベルから見た少女/少年小説史」(大橋崇行、笠間書院)を読んでいますが、作者は、文学作品としての児童文学こそがアカデミックな研究に耐え得るものとする論調に異を唱え、現代のライト・ノベルに繋がるエンタテイメントとしての「少年小説」を取り上げています。

 例えば、大阪国際児童文学館のリストにも入っている、巌谷小波の「こがね丸」も、日本における最初の「児童文学」作品として位置づけられるより、「少年小説」の系譜に入れるべきものだと説いています。
 この系譜は、戦後の「痛快文庫」に引き継がれ、マンガによってが取って代わられたりもしたが、キャラクター立ちする手法等を確立しながら、近年の「ロードス島戦記」、「涼宮ハルヒの憂鬱」、「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーのマネジメントを読んだら」などのヒットに繋がっている、かも知れません。

高垣眸2016-01-24 16:38:34

 高垣眸が昭和6年に書かれた少年小説「怪人Q」を読みました。

 第一次世界大戦で敗戦国となり、苛酷な賠償条約に虐げられた祖国ドイツを救うため、高名な科学者であったクラウス博士が恐怖のQ結社を組織し、世界を敵に回して戦う話を軸に据えます。
 東少年、石黒七段、ゲイ探偵らがQに立ち向かい、奮闘しますが、潜水艦(潜行艇)、ヘリコプター(直昇ジャイロ)、ロボット(人造人間)など、当時の科学を先取りした発明と忠誠な部下を擁するQ結社は、米国の大西洋艦隊にもいささかたじろがず、米国大統領から約束を取り付け、Q結社を自ら解散しました。

 この作品の延長線上にあるのが、後の「凍る地球」、「恐怖の地球」などの地球シリーズなのかも知れません。
 白色人種がもたらした文明によって、精神的畸形に近い人間が多数はびこっていることを、高垣氏はしきり憂慮しているようです。


 大阪国際児童文学館による「日本の子どもの本100選(戦前編)」にも高垣眸の「豹の眼」(1928年)が選ばれています。
 日本人の大佐を父に、旧インカ帝国の末裔を母に持つ黒田杜夫が主人公となり、舞台はサンフランシスコやアリゾナ大高原になっています。清王朝の遺族でサンフランシスコのアヘン窟に身を潜めている恭親王、王の娘で日本人の手品師を母親に持つ錦華、王の部下である張爺や、混血のインディアンらと一緒に、主人公たちはインカ帝国の秘宝をめぐって、白色人種と戦う冒険活劇です。その敵のボスが「豹」であり、銀行の頭取と政府の探偵という二つの顔を持った人物、という設定であるようです。

 1959年のテレビドラマ「豹の眼」がDVDで出ていますが、すでに設定が変わり、主人公黒田杜夫はジンギスカンの血をひく日本人となっています。清王朝再興を目指す秘密結社「青竜党」の娘・錦華たちとともに、ジンギスカンの隠し財宝争奪戦に挑む話のようですが、そこには高垣眸が書いていた、反白人主義的な一面がほぼ省かれたのであります。


  「宇宙戦艦ヤマト」のメディアミックス作品のひとつに、高垣眸の「熱血小説/宇宙戦艦ヤマト」(1979年)が、あります。
 どうやら「宇宙戦艦ヤマト」のスタッフは、高垣眸作品のきわめて熱心な読者だったようです。そのため、当時はすでに勝浦に住み、半ば引退していた高垣氏に小説の原稿を依頼し、例え内容がアニメ版と食い違いがあったとしても、出版させたようです。

 しかし、高垣版ヤマトに対し、当時(1980年前後)のアニメ視聴者たちは古臭くと感じ、総じて評価が低いようです。時が流れ、1930年代生まれのヤマトの製作者側と、ヤマトを見ているファンたちの間には、厳然たるジェネレーションギャップがあったのかも知れません。