【馬関係の本】「馬と人の文化史」J・クラットン=ブロック2007-06-04 23:54:04

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 清水裕次郎訳、桜井清彦氏監訳、東洋書林発行、原書房発売、となっており、原題は「HORSE POWER ~ A history of the horse and donkey in human societies」、直訳すれば、さしずめ「ホース・パワー ~ 人類社会における馬とロバの歴史」となるんでしょうか?

 第1部は「野生のウマとロバ」と題し、考古学および生物学から見た野生のウマ、ロバの話です。
 第2部は「誇る祖先もなく、子孫を望みもないウマ科動物」と含みのある題名にしていますが、タイトルから推測される通り、ロバと馬を交配させて生まれるラバやヒニーについて書かれた話です。

 そして最後の第3部は「家畜化した馬、ロバ、ラバの歴史」ですが、いわばこの本のメインディッシュ、全書の75%ぐらいのページ数を占めています。
 馬とロバの最初の家畜化や、車輪による最初の輸送、乗馬などについての推測もおもしろい内容だし、古代エジプト、スキタイとオリエントの馬から、ギリシャ、ローマの騎兵隊、南北アメリカの征服に至る、ヨーロッパ人中心の視点ではあるものの、広く地球各地域の歴史、伝承を取り入れているところもいいです。
 文章のほか、貴重な写真や図面もたくさんあって、とても勉強になりました。

 第3部の最後の章は「競馬の歴史」となっていますが、一般にこのタイトルから想像されるサラブレッドの3大祖先の話から始まるものではなく、もっと古く、ホメロス時代の戦車競走から筆を運んでいます。
 ちなみに、ホメロスが「イーリアス」のなかで書いている、現存最古?の戦車競走の話は、1着から5着までそれぞれ賞品がつき、レースの参加者(御者と馬)に対する予想にも似た前評判の紹介があったり、レース後の妨害に対する抗議とその審議があったりと、現代競馬の多くの要素がすでに含まれているところが、実に興味深い話です。