アジア特電 1937~19852015-08-05 20:06:03

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 「アジア特電 1937~1985 激動なる極東」(ロベール・ギラン著、矢島翠訳、平凡社)

 日中戦争中の上海、真珠湾以降の戦時下の日本、マッカーサーと占領軍、インドの独立運動、中国の国共戦争、朝鮮戦争、ベトナム戦争、そして中国の文化大革命。
 まさに大動乱時代のアジアを、フランス人ジャーナリストの作者は駆け巡り、そして見聞した様々な事柄を、この本に書き綴りました。

 作者は、戦後の繁栄期も含めて日本駐在が長く、東京下町の情緒や地方の風物の味わいを愛している親日家です。
 しかし、日本軍が上海や南京で行った蛮行に対しては、厳しい批判を忘れていません。
 混乱があったのは短時間だったかも知れません。素早く手を打たれ、処罰が行われたのも事実なのかも知れません。犠牲者の数字は正確ではないかも知れません。しかし、旧日本軍の暴力行為が非常に多かった、と言った証言を、直接作者が目にした惨状と併せて、しっかりと書き留めています。(途中で出会った日本女性の優しさとは対照的であった)

 いずれにしても、戦争の極限状態が、いかに人間の良識を破壊し、狂気を呼び起こしてしまうかを、決して忘れてはいけません。
 旧日本軍の汚名をすすごうとする右翼的なナショナリスティックなキャンペーンが、いかに空しいかを、感じずにはいられません。

「悲情城市」2015-08-16 13:44:55

 侯孝賢監督の台湾映画「悲情城市」は、228事件が公に語られることさえほとんどなかった1989年に、あえてタブーにも挑んだ有名な作品です。
 それをいまさらながら、tudou.com で見ました。

 この映画は、基隆に住む林さん一家の物語です。彼らが口にするのは主に台湾語であり、日本語も飛び交います。妻を亡くした老人男性、その跡継ぎの恰幅よい長男、大陸で日本軍の通訳をしていた三男、耳の聞こえない写真技師の四男、および彼らのまわりの人々の日常が描かれています。

 話の始まりは、1945年8月15日であり、冒頭にまず聞こえてくるのが太平洋戦争の終結を報じる、いわゆる玉音放送でした。
 つい先日に初めて知りましたが、実はアメリカではその前日に日本の無条件投降が報道され、戦勝と平和の到来に人々が沸きあがっていたようです。
 が、日本人には、やはり8月15日が第二次世界大戦が終了した日であり、そして台湾にもその日に、あの放送が流れていたのです。

 「悲情城市」では、最後まで次男は登場しません。彼は軍医として戦地に行ったまま行方不明となっている設定です。少なからぬ台湾の人々は軍人や軍属としてかの戦争の犠牲になっていました。