残酷な春を、ただ座り、眺め、聞く2015-04-28 22:49:12

 世界の屋根だと謳われた国で、ひどい天災が発生しました。
 また、別の国では戦争やテロが人の尊い命を奪っています。
 死に直面しざるを得ない多くの人たち、そしてその親族や友人のことを想像し出せば、言葉はほとんどを用をなさないような気がしてきました。

 カール・アマデウス・ハルトマンの交響曲一番を聞いてみます。



 この交響曲は、ウォルト・ホイットマンの詩にインスパイアされ、1936年頃から構想し、長年かけて作り上げたものです。
 導入部は「Elend(苦しみ)」というタイトルが付けられ、怒り狂う金管とティンバニの爆発に挟まれて、アルトの独唱が語りかけます。

 私はただ座り、眺めている、この世のあらゆる災いを
 すべての苦しみと恥辱を
 私は戦争、疫病、暴政が続くのを眺め
 犠牲者や囚人をただ眺めている
 ......

 第二楽章は「春(Frühling)」というタイトルです。独唱と木管がかわるがわる歌い、毎年繰り返し咲くライラックの花を称えます。
 と、同時に、この残酷極まる4月の花からいやおうなく湧き上がる死への思いも、そこに歌われます。

 咲き残りのライラックが戸口の庭に匂い
 夜空の西に大きな星が沈み果てた時
 私は嘆き悲しんだ~そして返り来る春毎に嘆き悲しみ続けるだろう。


 カール・アマデウス・ハルトマンは、インゴ・メッツマッハーの言葉(「新しい音を恐れるな」(春秋社)」を借りれば、第三帝国時代の重要なドイツ人作曲家の中で、体制に迎合しない勇気があった唯一の人物です。
 この交響曲は、孤独と絶望に満ちた時代のもっとも鮮烈な証言、だとも書いています。

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