媽祖祭(2) ― 2011-06-14 01:28:30
日本の領土として統治を受けていた時代、台湾における日本語文学を語るうえ、避けて通れないのが西川満です。
西川満の功過は語るに難しく、台湾文壇を牛耳るやり方には批判の声も多かったようです。しかし、二十代に書かれたこの「媽祖祭」の詩は台湾語(閩南語)のフレーズを多用し、絢爛たるエキゾチシズムを醸し出し、僕は好きです。
西川満の功過は語るに難しく、台湾文壇を牛耳るやり方には批判の声も多かったようです。しかし、二十代に書かれたこの「媽祖祭」の詩は台湾語(閩南語)のフレーズを多用し、絢爛たるエキゾチシズムを醸し出し、僕は好きです。
コメント
_ 花うさぎ ― 2011-06-15 08:55:01
_ sharon ― 2011-06-16 19:24:48
分からんチン状態(涙)
_ T.Fujimoto ― 2011-06-17 23:49:13
花うさぎさん、確かににぎやかなような、静かなような、ちょっと不思議な感じだと、僕も思いました。
「めまいのするような強烈な原色のエキゾシチズムを巧に言語化したもの」だと評する人もいましたが、二歳に台湾に渡った西川氏にしてみれば、異国情緒ではなく、幼い頃から親しんだ台湾の風物を、日本語で歌い上げただけかも知れません。
17番のおみくじの詩、本来は地の利を説いているだけかも知れませんが、いつの間にか、男女の仲について、近きにいれば恋が成就しやすい、というような使い方が多いようです。
「めまいのするような強烈な原色のエキゾシチズムを巧に言語化したもの」だと評する人もいましたが、二歳に台湾に渡った西川氏にしてみれば、異国情緒ではなく、幼い頃から親しんだ台湾の風物を、日本語で歌い上げただけかも知れません。
17番のおみくじの詩、本来は地の利を説いているだけかも知れませんが、いつの間にか、男女の仲について、近きにいれば恋が成就しやすい、というような使い方が多いようです。
_ T.Fujimoto ― 2011-06-17 23:59:37
sharonさん、まあ、意味がわからなくても大丈夫じゃないでしょうか。作者はなんらかの物語を思い浮かべているかも知れませんが、筋の伝達はあまり強調されていないかも。
金紙を焼く煙がたちこめるなかに巫女が出たり、銅鑼の音をバックに布袋戯が賑やかなに演じられたり、そういう雰囲気の構築に力点が置かれているようですね。
金紙を焼く煙がたちこめるなかに巫女が出たり、銅鑼の音をバックに布袋戯が賑やかなに演じられたり、そういう雰囲気の構築に力点が置かれているようですね。
_ T.Fujimoto ― 2011-06-18 00:17:44
注釈を追加したほうが良いかも知れないのは、いくつかありますが。
「花娘」は芸妓のことで、「蓬莱閣」は当時台北大稻埕にある「芸妲間」、日本人のたまり場だったようです。
「約三十坪左右,裝潢布置談不上豪華,一間臥房,一間客廳,一間供客人飲宴的餐廳,掛幾幅字畫,簡潔幽雅,沒有供應酒菜,酒菜都從外面菜館送來。藝妲多以斜抱琵琶自彈自唱為主,偶爾也有添加鑼鼓伴奏」
「布袋戯」は台湾でお馴染みの人形劇、僕も幼いときに野台で見たり、テレビで熱中しました。「武将」の体が空を飛ぶのは、たいがい切られたときです。
「花娘」は芸妓のことで、「蓬莱閣」は当時台北大稻埕にある「芸妲間」、日本人のたまり場だったようです。
「約三十坪左右,裝潢布置談不上豪華,一間臥房,一間客廳,一間供客人飲宴的餐廳,掛幾幅字畫,簡潔幽雅,沒有供應酒菜,酒菜都從外面菜館送來。藝妲多以斜抱琵琶自彈自唱為主,偶爾也有添加鑼鼓伴奏」
「布袋戯」は台湾でお馴染みの人形劇、僕も幼いときに野台で見たり、テレビで熱中しました。「武将」の体が空を飛ぶのは、たいがい切られたときです。
_ T.Fujimoto ― 2011-06-18 00:30:02
ちなみに、この6つの段落からなる「媽祖祭」の詩は、僕は「台湾の日本語文学」(垂水千恵、五柳書院)から写したものです。
これとは別に、7つの段落がなっている版も、どこかで読んで写したことがあります。最後に追加されている段は以下の通り:
花が降る。火龍が踊る。媽祖宮の、藝閣の中に、なにごとぞ、群衆わけて逃げ行く男。狂子か、月を指してどなる声。「九天玄女娘娘、急急如律令。」
この「九天玄女娘娘、急急如律令。」は台湾語、「キュウテンヘンリュウニュウニュウ キプキプズウルツリエン」のルビが振られています。
これとは別に、7つの段落がなっている版も、どこかで読んで写したことがあります。最後に追加されている段は以下の通り:
花が降る。火龍が踊る。媽祖宮の、藝閣の中に、なにごとぞ、群衆わけて逃げ行く男。狂子か、月を指してどなる声。「九天玄女娘娘、急急如律令。」
この「九天玄女娘娘、急急如律令。」は台湾語、「キュウテンヘンリュウニュウニュウ キプキプズウルツリエン」のルビが振られています。
_ sharon ― 2011-06-20 11:22:27
T.Fujimotoさん、詳しくご紹介していただいて、有難うございます。
18才から台湾から日本に来て、日本語がこんなに完璧になったのは、やはり日々の努力でしょうが、感心するばっかりです。
18才から台湾から日本に来て、日本語がこんなに完璧になったのは、やはり日々の努力でしょうが、感心するばっかりです。
_ T.Fujimoto ― 2011-06-22 06:25:19
sharonさんは、もっと遅く日本に来て、母国語でもない日本語を不自由なく流暢に操っているので、それはそれで素晴らしいと思います。
西川満がこの「媽祖祭」を書いたのは二十代の後半、2歳か3歳かに台湾に渡って、再び日本に戻ったのは大学に入るとき、たぶん18歳か19歳の頃でしょうね。その後台湾日々新聞に就職したようですが。
西川満がこの「媽祖祭」を書いたのは二十代の後半、2歳か3歳かに台湾に渡って、再び日本に戻ったのは大学に入るとき、たぶん18歳か19歳の頃でしょうね。その後台湾日々新聞に就職したようですが。
_ uedada ― 2011-06-23 12:56:57
うーむ、台湾語。
以前ちょっとかじりかけたことがあって、発音の具合は何となくわかります。
-oeとか-oaの発音が、個人的には結構好きだな。「ぼえみーきゃー」とか(笑)
ところで、ちょっとご相談があります。よろしければ、
メールを一本いただけませんか?
以前ちょっとかじりかけたことがあって、発音の具合は何となくわかります。
-oeとか-oaの発音が、個人的には結構好きだな。「ぼえみーきゃー」とか(笑)
ところで、ちょっとご相談があります。よろしければ、
メールを一本いただけませんか?
_ T.Fujimoto ― 2011-06-24 07:42:33
uedadaさん、おはようございます。
すみません、「ぼえみーきゃー」はなんですか?ちょっと考えてみましたが、仮名で書いてもなかなかわからないですね。
メールはOKですが、よく考えたら、uedadaさんのアドレスがわからないです。
すみません、もしかして頂いていたかも知れませんが。
すみません、「ぼえみーきゃー」はなんですか?ちょっと考えてみましたが、仮名で書いてもなかなかわからないですね。
メールはOKですが、よく考えたら、uedadaさんのアドレスがわからないです。
すみません、もしかして頂いていたかも知れませんが。
_ why ― 2011-06-26 14:04:40
Fujimotoさん、こんにちは!
不覚にも西川満、知りませんでした。「媽祖祭」もまだ一度もこの目で見たことはありませんが、想像していたものと違い、かなり世俗的な、賑やかな浮世の風景のようですね。自分たちのためのお祭りですから、やはり自分たちに都合よい形にしますね。おもしろ~い。
台湾語のルビを読むと、なんかところどころに促音を散りばめると、かなり広東語っぽく聞こえるのではないかという気もしますが、でも、実際、私の聞いた台湾語は広東語と似ても似つかないものでした。声調はまったく別物ですよね。近いから通じるかなと思ってしまうのがやはり北方人の甘さからでしょう。
大分前に、海事法関連の事案の仕事をしたことがありました。確認もせず気軽に引き受けて、いざ赴いてみると、相手は台湾語を話す方でした。私の北京語はなんとか理解してくれたようですが、向こうの言葉はさっぱりわからず、立ち往生してしまったという、苦い経験を持っています。(それにしても、相手が相手なら、これまたもしかしてメディアが群がる一大ニュースだったのではないかと・・・台湾でよかったぁ。)
ところで、3行目の後半、「做婊相手」ってことですか。中国語と日本語のちゃんぽんってことですかね。どうして17番が近水楼台なのか、お祭りの儀式自体、どういうふうに行われるものか分からないので、今ひとつピンと来ません。
不覚にも西川満、知りませんでした。「媽祖祭」もまだ一度もこの目で見たことはありませんが、想像していたものと違い、かなり世俗的な、賑やかな浮世の風景のようですね。自分たちのためのお祭りですから、やはり自分たちに都合よい形にしますね。おもしろ~い。
台湾語のルビを読むと、なんかところどころに促音を散りばめると、かなり広東語っぽく聞こえるのではないかという気もしますが、でも、実際、私の聞いた台湾語は広東語と似ても似つかないものでした。声調はまったく別物ですよね。近いから通じるかなと思ってしまうのがやはり北方人の甘さからでしょう。
大分前に、海事法関連の事案の仕事をしたことがありました。確認もせず気軽に引き受けて、いざ赴いてみると、相手は台湾語を話す方でした。私の北京語はなんとか理解してくれたようですが、向こうの言葉はさっぱりわからず、立ち往生してしまったという、苦い経験を持っています。(それにしても、相手が相手なら、これまたもしかしてメディアが群がる一大ニュースだったのではないかと・・・台湾でよかったぁ。)
ところで、3行目の後半、「做婊相手」ってことですか。中国語と日本語のちゃんぽんってことですかね。どうして17番が近水楼台なのか、お祭りの儀式自体、どういうふうに行われるものか分からないので、今ひとつピンと来ません。
_ T.Fujimoto ― 2011-06-27 07:38:05
whyさん、西川満を知らないのは、なんら不思議ではありません。時代背景も相まって、長い間、意図的に抹消されている作家のひとりです。
この「媽祖祭」も、当時は評論家等から賛辞が寄せられ、西川氏の文名をあげたようですが、台湾に住んでいた時は、まったく見聞きしたことがありませんでした。詩についての解説も、いまだ目にしたことがなく、はたして「籤詩」に「近水樓台先得月」が本当にあったのか、十七番としたところに特別な意味が込められたのか、正直なところ、僕はわからないです。
台湾の「廟会」や「祭典」は、金紙を焼き、銅鑼を響かせ、人々がごちゃごちゃ往来しながら、確かに雑多で賑やかなものが多いです。
この「媽祖祭」も、当時は評論家等から賛辞が寄せられ、西川氏の文名をあげたようですが、台湾に住んでいた時は、まったく見聞きしたことがありませんでした。詩についての解説も、いまだ目にしたことがなく、はたして「籤詩」に「近水樓台先得月」が本当にあったのか、十七番としたところに特別な意味が込められたのか、正直なところ、僕はわからないです。
台湾の「廟会」や「祭典」は、金紙を焼き、銅鑼を響かせ、人々がごちゃごちゃ往来しながら、確かに雑多で賑やかなものが多いです。
_ why ― 2011-06-30 21:55:35
去年辺り読んだ小説でしたが、長旅から帰港し、陸に引き揚げた漁師たちは家に戻る前に、歓楽街に繰り出して、お馴染みの妓のところで夜を明かすといったくだりがありました。誰が書いたなんという小説だったか全く覚えていませんが、日本語だったような気がします・・・
漁師という仕事柄だからでしょうか。ここの「做婊相手」も「十六の花娘は客を待つ」もそういうひとつの行事として捉えられているのではないでしょうか。ここでは、長旅に出かける前の、船の安全を祈るのと同じ感覚で、お祭りに参加する人たちはごく自然な儀式の一つとして受け止めていたのかもしれませんね。ふと、そんなことを思いました。
ま、もっとも読み違っていたら、ものすごく恥ずかしいことですが。
漁師という仕事柄だからでしょうか。ここの「做婊相手」も「十六の花娘は客を待つ」もそういうひとつの行事として捉えられているのではないでしょうか。ここでは、長旅に出かける前の、船の安全を祈るのと同じ感覚で、お祭りに参加する人たちはごく自然な儀式の一つとして受け止めていたのかもしれませんね。ふと、そんなことを思いました。
ま、もっとも読み違っていたら、ものすごく恥ずかしいことですが。
_ T.Fujimoto ― 2011-07-04 03:49:11
whyさん、遠洋漁業の漁師にとって、久々の陸はやはり嬉しいもので、仕事が一段落したことも意味しているし、やはり発散したい気分なのでしょうか。
この詩に出ている「蓬莱閣」は、日本人や現地の文人たちがよく使い、たまり場だったようです。
この詩に出ている「蓬莱閣」は、日本人や現地の文人たちがよく使い、たまり場だったようです。
_ Chen ― 2013-01-26 19:25:18
I am sorry to write in English instead of Japanese. Perhaps Ms. Fujimoto can translate for others.
I met 西川満 a few times at his home, but did not ask him about what he wrote. I am from Taiwan and I know the culture and both the Taiwanese language and Chinese language. Many things described by 西川満 are only hodgepodge of things, and not necessarily make sense or accurate. For instance, 白豚 could never be used for the purpose of worship (廟会」や「祭典」には, 白豚は絕對場違いのものです),but he used it in his writing for such occasion.
However, one thing strikes me and impressed me the most is the pronunciation of those 漢字 in Taiwanese. Those 漢字 and Chinese phrases are pronounced in Taiwanese (河洛語), which you probably couldn't find any more in today's society. As a Taiwanese, I really appreciate how he knew about those Taiwanese pronunciations (台灣語)of phrases.
He considered himself as someone good at 本造り。He was really indulged himself in the art of bookmaking throughout his life.
I met 西川満 a few times at his home, but did not ask him about what he wrote. I am from Taiwan and I know the culture and both the Taiwanese language and Chinese language. Many things described by 西川満 are only hodgepodge of things, and not necessarily make sense or accurate. For instance, 白豚 could never be used for the purpose of worship (廟会」や「祭典」には, 白豚は絕對場違いのものです),but he used it in his writing for such occasion.
However, one thing strikes me and impressed me the most is the pronunciation of those 漢字 in Taiwanese. Those 漢字 and Chinese phrases are pronounced in Taiwanese (河洛語), which you probably couldn't find any more in today's society. As a Taiwanese, I really appreciate how he knew about those Taiwanese pronunciations (台灣語)of phrases.
He considered himself as someone good at 本造り。He was really indulged himself in the art of bookmaking throughout his life.
_ T.Fujimoto ― 2013-01-27 23:03:37
Chenさんは、西川満氏に実際に会われていますね。
書籍の装丁、作りに力を入れているのは、確かに仰る通りだと思いました。インターネットで見ただけですが、「媽祖祭」も台湾の賽銭紙が綴じ込まれていたり、装丁の美しい本でしたね。(http://libwww.gijodai.ac.jp/cogito/library/ni/NishikawaMitsuru-Masosai.html)
しかし、僕も18年間台湾に住んでいましたが、恥ずかしいながら、廟会で白豚が使われないのは、まったく知りませんでした。
いろいろ教えて頂き、ありがとうございました。今後もよろしくお願いします。
書籍の装丁、作りに力を入れているのは、確かに仰る通りだと思いました。インターネットで見ただけですが、「媽祖祭」も台湾の賽銭紙が綴じ込まれていたり、装丁の美しい本でしたね。(http://libwww.gijodai.ac.jp/cogito/library/ni/NishikawaMitsuru-Masosai.html)
しかし、僕も18年間台湾に住んでいましたが、恥ずかしいながら、廟会で白豚が使われないのは、まったく知りませんでした。
いろいろ教えて頂き、ありがとうございました。今後もよろしくお願いします。
_ Chen ― 2013-01-28 04:03:55
Thank you very much for all of your comments. The link you provided is very nice. I have 《西川滿全詩集》(published on 昭和57年2月12日by西川滿,限定800本),but did not see the content of the original book 媽祖祭 which was previously published in 昭和10年. From the link, I saw that the original 《媽祖祭》裝幀 was done by 宮田彌太朗。I have a silk painting he did for my mom. I went with my mom to see 西川滿during the 1990's. He and my mom was reunited (再會)in 1989 in Tokyo.
You are very knowledgeable. I wonder what your fields of studies are. Perhaps you can write me emails if you wish. Thank you.
You are very knowledgeable. I wonder what your fields of studies are. Perhaps you can write me emails if you wish. Thank you.
_ T.Fujimoto ― 2013-01-30 07:49:33
Chenさん、おはようございます。
西川満氏について、いろいろ教えてくださって、ありがとうございます。
私は決して物知りではなく、学術的にいろいろ勉強したわけではありません。「このブログについて」で書かせて頂いた通り、広い世界の森羅万象から、私が驚いた、頷いた、笑った事柄をあれこれ写しただけです。
西川満氏について、いろいろ教えてくださって、ありがとうございます。
私は決して物知りではなく、学術的にいろいろ勉強したわけではありません。「このブログについて」で書かせて頂いた通り、広い世界の森羅万象から、私が驚いた、頷いた、笑った事柄をあれこれ写しただけです。
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にぎやかなような、静かなような雰囲気があって。
で、17番のおみくじの意味はどういうことなのでしょう。
「恋妻のやさしかりし手よ、胸よ、瞳よ」とは、もう妻はそんな若き日の妻ではなく、すっかり変貌してしまったということなのでしょうか。
で、「逢春」とは、誰かまたいい人と出会うでしょうということなんでしょうかね。
何だか下世話な解釈をしてしまいました。