聴覚機構に対する挑発?2010-08-29 14:46:32

 ある実験のために、Charles Ives (1874~1954)は、コネティカット州ダンベリーの中央広場にある塔に登りました。
 事前に打ち合わせした通り、近在の村々からバンドがひとつずつ、互い独自のメロディ、リズムを奏で、行進しながら集まってきました。Charles Ives親子はその中心、すべてを聞き取れる最高の位置にいて、様々なマーチ、いろいろな響きが耳の周りを飛び交い、その音の交差に酔いしれたそうです。

 耳よりの話ですが、人間の耳は元々音を聞くために作られたわけではありません。
 平衡器官であった両耳は、ライアル・ワトソン博士の著作によれば、「半ば思いつきのように」鳥類や哺乳類の段階になって、外界の多様な音に反応する能力が付け加えられました。この思いつきの成果は、しかしなかなか優秀です。混み合う駅の待合室、多くの話し声と騒音のなかでも、ひとつの声に意識を集中して、盗み聞きしているそぶりを見せずにその内容を聞き取る芸当まで、我々は身に付けてしまいました。
 脳がそうした作業に関与していているのは疑いもないですが、異なる振動数への耳の反応や、紛らわしい雑音の中からひとつのメロディ、リズムを掻き分ける理論は、いまでも明確になっていないらしいです。

 多くの楽器が鳴り響くような状況、そして冒頭の実験の成果を、Charles Ivesがもっとも反映した作品の1つに、「ニューイングランドの3つの場所(Three Places in New England )」の第2楽章「Putnam's Camp」が挙げられます。
 出だしから変です。時々リズムがずれて、馴染みのあるメロディを追っていく脳を含めた聴覚機構は、肩すかしを何度も食わされます。そして終盤には激しい音の交差、僕などは聞いていて笑い出してしまうぐらいです。
 この挑発はなかなか楽しいです。


コメント

_ 花子ママ ― 2010-09-16 20:55:40

まず記事を読まずに再生して聴いてみました。

イメージは、吹奏楽やオーケストラのグループが、とある会場でコンクールで出番待ちです。
一団体に楽屋が割り当てられていて、ある瞬間、楽屋の壁が取っ払われてしまう。
なのに皆、それに気づかず音合せをしている。

そんな場面を想像しました。結局、この挑発を楽しめたということになりますかね^^

_ T.Fujimoto ― 2010-09-21 23:14:58

花子ママさん、なるほど、楽器ができる方にはそのように聞き取れるのですね。
僕にはただイタズラっぽくて、おもしろいなと思いました。

例えば、Charles Ivesの交響曲第4番第2楽章の後半も、です。
管楽器と複数のピアノが盛大にファンファーレを鳴らしていると、いきなり静かに賛美歌の和音だけが残る場面に変わり、その後ふたたびびっくりさせられるぐらいに賑やかになる箇所があります。インゴ・メッツマハーが言うには、騒がしい通りから静かな教会に入るシチュエーションだそうですが、そのような想像力を持っていない僕でも、信じられない展開に驚かされ、笑ってしまいます。

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