「三夢記」2010-09-05 00:27:50

 最近読んだ「中国文学の愉しき世界」(井波律子、岩波書店)に、白行簡の手になる「三夢記」を取り上げた文章も、含まれています。
 不思議な夢を三パターン、それぞれ例を挙げて記しただけの短文(http://zh.wikisource.org/zh/%E4%B8%89%E5%A4%A2%E8%A8%98)ですが、おもしろいです。

 適当に分けてしまえば、
 パターン第一種は、ほかの人の夢のなかに、正気(のはず)の自分が入り込んだ、入り込んでしまった、というタイプです。
 パターン第二種は、知らないはずの事実を、他人の行動を、夢のなかで見て知ったパターンです。
 そしてパターン第三種は、複数の人が同じ夢を見て、夢のなかに出会ったパターンです。

 しかし、一見まったく違うシチュエーションの三パターンも、その違いはかなり微妙なものだったりします。
 今昔物語も最近ぱらぱらと読んでいますので、例として挙げておきます。

 巻三十一の第十では、愛人宅で寝泊まりした勾経方の夢に、正妻が意図的に現れて大騒ぎを起こしたので、第一種のパターンだと言えましょう。
 巻十三の第十一「一叡持経者、聞屍骸読誦音語」では、見かけた屍骸のもとで礼拝した一叡の夢に、すでに白骨と化した東塔の住僧・円善が現れました。円善から見れば第一種の変形だと言ってもいいですが、一叡の立場で言えば第二種のパターンに該当するかも知れません。

 巻第三十一、常澄の安永という者が長旅を終え、家に戻る前夜、宿の隣室で妻がほかの若い男と逢い引きするのを見て、我慢ならんやと踏み込んでみたら、部屋は真っ暗になり、はっと夢から目が醒めました。家に帰って妻に会うなり、昨夜に変な夢を見たよと妻が言い出しました。知らない男に連れ出され、一緒にご飯を食べて寝てしまったところを、いきなりあなたが飛び出したのでびっくりしたわ、と。
 安永と妻が同じ夢を見たので、パターン第三種になるのでしょう。
 しかし、もし「はっと目が醒めました」のでなければ、妻の夢に踏み込んだだけのパターン第一種になるし、逆に妻が嘘をついて本当に裏切ったなら、それを知った安永の夢はパターン第二種になるかも知れません。

コメント

_ why ― 2010-09-05 23:16:42

なるほど、こういう三つのパターンがありますね。確かに考えてみたら、微妙な違いしかありませんし、どのパターンも一般的な話ではないですよね。
十代の頃は夢の解析とかに興味を示す時期もありましたが、今はもう無頓着もいいところです。ま、とっくに夢なんか語る年齢ではないってことかしら。トホホ。

俗物の見方ですが、夢は何でもない日常生活の延長か、抑圧されている願望の現れのどっちかでしょう。あとは、カラーか、白黒のどっちか、私の分け方はこれしかないですね。
でも、たまには邯鄲の夢のような面白い夢を見てみたいものですね。「夢里不知身是客、一晌貪歓」では、切なすぎますし、「鉄馬氷河入夢来」では、寝ながらくたびれてしまいます。荘周夢蝶はいいですね。日常と切り離して、非現実的なロマンがあって、面白そう。その美意識もたまりません。

夢かうつつかと、対照的に使っているくらいですから、やはり夢は非現実であると、昔の人間も冷静に分析して,分かっていたんですね。
それでも、夢を追い続ける人に惹かれたりするのは、人間はけっして現実に満足していないからでしょうか。

_ xdaiba ― 2010-09-06 00:00:30

我日语没有自信就不在您这里献丑了。一直很希望谁能发明一台“梦的放映机”,就是可以将人的梦变成影像在电视里放映的机器,不过想想肯定也许比鬼片还要恐怖,比色情片还要下流......不过也许会比电影更卖座。(笑)

_ sharon ― 2010-09-06 09:59:48

正しく「インセプション」ですね。レオナルド・ディカプリオが夢にも思わなかったたろう?SFと思ったら昔話ですね。

_ T.Fujimoto ― 2010-09-08 06:45:25

whyさん、おはようございます。「鉄馬氷河入夢来」はどういう意味ですか?

俗物ゆえ、まともな夢を見なくなって久しいです。カラーか白黒かというより、映像なのか音声だけなのか、支離滅裂です。
「日有所思夜有所夢」は、必ずしもあたらないような気がします。潜在意識と言われるとわかりませんが、whyさんが書かれたように、夢かうつつか、昔の人間が考えたように、現実とは厳然と区別される別の世界が夢にはあるように感じます。荘周夢蝶、夢を解釈しようとするのが野暮なのかも知れません。

一晌貪歓の後に夢から覚めて唏嘘不已なのと、恐怖逆境の夢から目覚めてよかったと思うのと、どっちが良いなの夢でしょうね?
夢を追う人、追われる人。「夢裡尋他千百度」、却又「猶恐相逢是夢中」。

_ T.Fujimoto ― 2010-09-08 06:53:37

xdaibaさん、わはは、おもしろいです。
夢を記録して後で見れるような装置は、僕もほしいと思っていました。
但し、忘却するための過程で夢を見る説もあり、すると余計なことをやっていることになりますが。
いずれにしても、見るときもひとり、「卖座」かというより、とても人には見せられないような気がします(笑)

_ T.Fujimoto ― 2010-09-08 06:59:54

sharonさん、「インセプション」は未見ですが、他人の夢に潜るスペシャリストの話でしょうか?
勾経方の妻はそういう能力者になりますね。怖いと思いました。それでも夫の夢に出現して騒ぐだけで、現実の世界での解決には踏み込めていないのは、ある意味で悲しいです。

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