鰹はウナギ?2013-10-16 23:31:33

 初カツオを取り上げたことがあります(http://tbbird.asablo.jp/blog/2011/04/12/5801133)が、天高く秋、いまは戻りカツオが美味しい季節です。
 「戻りカツオは脂が多い。質の良い物はマグロのトロにも負けない脂のうまさがある」と、ウィキペディアに記載されています(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%84%E3%82%AA)が、確かにそうかも知れません。


 このウィキペディアには以下の記述もあります:
 「日本では古くから食用にされており、大和朝廷は鰹の干物(堅魚)など加工品の献納を課していた記録がある。カツオの語源は身が堅いという意で堅魚(かたうお)に由来するとされている。「鰹」の字も身が堅い魚の意であるが、中国ではこの字はウナギを指す。」

 前半は問題ありません。
 「徒然草」の第百十九番目の話題に、カツオのような下魚と言われていた魚が、いまでは身分の高い人も食べはじめ、世も末だからこそと、当時の世情を嘆いた文章があります。
 「たべもの噺」(鈴木晋一、小学館ライブラリー)を読むと、江戸時代の荻生徂徠がこの文章を読んで、「かつうをは供御に用ふる物なり。延喜式に見ゆ。兼好も古書は見ざるにや。」(「南留別志」)と書き、兼好の無学を批判したそうです。
 しかし、平安時代、天子の食膳に上せられていたのは、ウィキペディアで書かれたように、どう考えても生魚ではなく、現代の鰹節でなくとも、煮て乾燥した一種の乾魚だと考えられます。「鰹」の字源が「堅い魚」であることも頷けるもので、生で食べるかどうかとは別問題ですので、むしろ荻生徂徠の批判が勇み足だったと思われます。


 ところが文章の後半、中国では「鰹」はウナギを指す、とありますが、これは果たしてそうなのでしょうか?
 少なくとも現代の辞書では、「鰹」という漢字は日本語と同じ意味、カツオという魚を指すのに使われています。(日本語からの逆輸入かも知れませんが)

 では昔はどうでしたか、どうも「鰹」という漢字はあまり多用されていなかったようです。調べてみたところ、「爾雅注疏」の卷九·釋魚第十六に、一応「鰹」が出ています。(http://www.zwbk.org/zh-tw/Lemma_Show/75781.aspx

 鰹,大鮦;小者鮵。(今青州呼小鱺爲鮵。○鰹,音堅。鮦,音同。鮵,音奪。)
 [疏]“鰹,大鮦;小者,鮵”。○釋曰:此即上文“鱧”也,其大者名鰹,小者名鮵。故注雲:“今青州呼小鱺爲鮵。”鱺與鱧,音義同。

 「鱧」の記述も併せれば、鰹=鱺=鱧、つまり鯶魚であり、鯇魚であり、台湾でよく「草魚」と呼ばれている淡水魚のことを言っているようです。
 ウナギを指す用例は、結局僕は見つかりませんでした。

 ウナギは、中国語で「鰻鱺」(「鰻」とも略す)と書くことがあり、ただの「鱺」と多少関係があるかも知れませんが、詳細不明です。