愛の風2010-05-20 00:27:50

 美浦・鈴木勝美厩舎にアイノカゼという名前の5歳馬がいます。


 アイノカゼ、アユノカゼというのは東風です。

 万葉集の末二巻の中、アユノカゼに東風の二字を当てたものが有名なので、多くの辞書はこの語を東風としています。しかし、本来は風の向きに関係なく、海岸に向かってまともに吹く風のことだと、柳田国男が「海上の道」で述べています。
 「東風」という漢字を当てたのは、越中文人の居住地が、ちょうど西隅に偏していたことを意味するもの、と柳田先生が続きました。
 あるいはそうではなく、これは私見ですが、「東風」の漢字にしたのは例の赤壁の諸葛亮、「万事具備、只欠東風」の典故に依ったかも知れません。

 ともかく、アユノカゼもしくはアイノカゼというのは、数々の渡船を安らかに港に入れさせたり、または様々な海の好ましい漂流物、ものぐさを渚に吹き寄せ、海岸に打ち上げたりする風のことだそうです。

 柳田国男は取り上げなかったのですが、アユ(アイ)とは会う(会い)のことだとする説もあります。

 アイが吹かぬか荷が無うて来ぬか
 たゞしやにがたの河止めか

 というような歌になると、入船に都合の良い風はすべてアイの風となり、海に住む者にとって心のときめく風が悉く該当します。
 ほとんど、愛の風。


 僕の20年以上の競馬歴のなか、いままで一番馬券で損したのがキングヘイローです。
 そのなぜか愛しいキングヘイローの仔アイノカゼは、今年の2月に20ヶ月ぶりの2勝目を挙げて、ただいま休養中です。巡り合わせが悪いか、これまでのところ、好ましいものぐさを、いっさい僕に吹き寄せてはくれていません。