滬游雑記(1)2015-02-22 23:20:20

 GoogleのPlayブックスで、前から気になっていた「重修滬游雑記」が見つかり、無料ですし、早速購読しました。

 「滬」は上海の略称であり、「滬游雑記」は1876年頃、上海で出版された書物です。作者は清末の文人・葛元熙、補訂を行ったのはその友人の袁祖志です。「重修滬游雑記」を読むと、倉山旧主という人の詩文が多数出てきますが、これは袁祖志の数ある別名のひとつです。
 上海で「滬游雑記」が世に出た2年後には、早くも日本で和刻本である「上海繁昌記」が出版され、日本における最初の上海のガイドブックだと言えます。「重修滬游雑記」は改定増補版であり、出版されたのは1888年だと言われています。


 いま読むと、実におもしろいです。

 例えば、個人的に興味深いのは、「申江雑詠百首」(巻三)のなかに、「跑馬場」と題する一首があります。
 「一騎飛騰数騎催 萬人叢裏顯龍媒 似因講武開場圃 卻把輸贏鼓舞來」
 競馬場を詠んだ漢詩は、珍しいです。

 上海の古い市街地図で「自來火廠」と書かれているのを見たことがあり、「自來水」はともかく、「自來火」は知らなかったので、そのうち調べようかと思ってましたが、「滬游雑記」を読むと、出て来ました。
 「媒氣燈亦名自來火 英租界製於新鬧 法租界製於八仙橋」(巻二)

 「外國秤尺」のくだり、「英国一磅即中国十二両 一因制即中国尺七分零九毫二絲 一幅地即中国八寸五分一釐 一碼即中国二尺五寸五分三釐」、「法国一吉羅蔦稜麼即中国二十四両七銭九分四釐 一葛稜麼即中国二分四釐七毫八絲 一邁當即中国二尺八寸一分七釐 一桑的邁當即中国二分八釐一毫七絲 一密理邁當即中国二釐八毫一絲七匁」とあるのを読んで、なるほど、「因制」が「インチ」、「幅地」が「フィート」、「吉羅葛稜麼」が「キログラム」、「葛稜麼」が「グラム」、「邁當」が「メートル」、「桑的邁當」が「センチメートル」、「密理邁當」が「ミリメートル」だと、ようやく理解できました。

 巻四は、実用的な情報がたくさんあります。
 上海から各地へ電報を打つ際の値段を記したり、銀行(銭荘)、宿(客棧)や西薬局(洋薬行棧)の場所を紹介したり、有名な俳優や「女唱書」の名前とその十八番の演目を挙げたり、まさになんでもありです。

 邦人が上海に進出しはじめた時期に重なったこともありますが、和刻書がすぐに出たのは、本書の上海案内としての実用性にも注目したからでしょう。