ペテン師2013-05-14 23:53:26

 瀬戸内晴海に、「一筋の道」という著作があります。
 日本の伝統を守る名工や職人を訪ね、その姿、その話を綴るエッセイです。僕は図書館のリサイクル・コーナーで拾ってきて、空き時間に読んでいます。

 講談師、花火師、装潢師、螺鈿師、漆絵師、袋物師、指物師、能管師、藍染師、仕立物師、人形師、上絵師、浮世絵の彫師、刷師。目次を見ても、なんと「師」の多いことに、まず驚きます。
 「先生」という意味と関係なく、古くから使われているようで、やはり当て字だったのでしょう。
 その証拠に、大道商人やテキヤのことを「香具師」だと言い、寝ている人の金品を盗む泥棒まで「邯鄲師」だと称します。
 「する」という動詞の連用形名詞「し」で、「する人」という意味で使われた、という説がありますが、どうでしょうか。

 そう、「ペテン師」という言い方もありますね。
 こちらは「ペテン」のほうも、語源が気になりました。

 検索すると、ネット上の語源由来辞典では、「ペテン」は詐欺を意味する中国語の「bengzi」が訛った語、と解釈されています。(http://gogen-allguide.com/he/peten.html
 「bengzi」はどの中国語を指しているのかが思い当たらず、もしかして「騙子(骗子)」もしくは「騙局(骗局)」の誤植かと思いました。しかし、さらに検索してみたら、そうではなく、「繃子(绷子)」であるようです。(http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1411595794)。
 「繃子」は、中国語の方言・俗語で、「詐欺」という意味だそうですが、寡聞ながら、僕は中国語の文章でそのような使い方を目にしたことがないです。

コメント

_ 蓮 ― 2013-05-22 21:05:24

ペテン師の語源、なるほど、そういうことですか。
T.Fujimotoさんはこのようなことに、詳しく、ご興味をおもちですね。T.Fujimotoさんの文章を読むたびに、筆者の心の豊かさ、余裕を感じ、うらやましく思います。

_ T.Fujimoto ― 2013-05-22 23:31:30

蓮さん、こんばんは。お褒めの言葉、もったいないです。
日本語の「ペテン」が中国語の「繃子(绷子)」に由来するという説は、インターネットで検索するといろいろヒットし、たぶん合っていると思いますが、まだ僕は信用し切れていません。というのも、中国語で書かれた文章で、「坑繃拐騙」という四字熟語が出てきましたが、「繃子」だけで「詐欺」を意味する例文を、まだみつけられていません。
なぜこの語源説が広まったかは、辞書の「大言海」あたりに「中華語『(弓并)子(peng-tzu)』の訛り」と出ているためだと思われます。(弓并)は一文字、この簡体字は知りませんが、ウェード式ローマ字だと思われますので、確かにいまの漢語拼音だとbengziになりますね。

_ why ― 2013-05-22 23:59:33

「坑繃拐騙」、初めて見たかもしれません。普段は「坑蒙拐騙」のほうがよく使われているような気がしますが、エリアによって違うのでしょうか。

_ T.Fujimoto ― 2013-05-24 01:25:19

whyさん、こんばんは。
「坑蒙拐騙」の項に「坑繃拐騙」とも書く、と検索で出ましたが、「坑蒙拐騙」のほうも、実は僕はよくわかっていません。
よく使われる成語ですか?この「蒙」はどう解けば良いでしょうか?矇騙?
すみません、教えてください。

_ why ― 2013-05-26 23:32:59

いえいえ、博学なFujimotoさんに説明できるほど、私もよく分かりませんが、書き方が違っても意味は同じなようですから、地域性があるのでしょうかね。台湾はどっちを使うんですか。
「蒙」はごく一般的な意味で使われていると思います。騙す、ごまかす、よくある「蒙人」,「蒙蔽」といった使い方に近いでしょう。当然ご存知かと思いますが、同じ「蒙」でもう一つの意味があります。愚か、(ある分野に)明るくない、知識がないという時に使います。よくいう「啓蒙活動」もこの使い方です。
ま、ここまではごく普通のことですが、ただ、ふと思ったのはこうした使い方は「蒙古」の「蒙」と何か関係があるのではないかと・・・
あまり知られていないかもしれませんが「蒙古大夫」という言葉が昔あったそうです。日本語でいう藪医者という意味です。
いずれあまりポジティブに使われない「蒙」という字ですが、もしかして遥か昔、未知の地で生息する異民族に抱いたなんらかの感情が反映されているのかなと、推測しました。「蒙古」と他の使い方のどちらが先だったのかわかりませんけれど。

_ T.Fujimoto ― 2013-05-27 23:17:59

whyさん、こんばんは。
台湾ではどっちを使うのかというと、すみません、僕はどっちも見た記憶がないので、わかりません(^^;)
しかし、「蒙蔽」の「蒙」は「騙す」という意味ですか?「覆う」ぐらいの意味かと思いました。「啓蒙」の「蒙」が無知である様を表すのに使っているのは、さすがに知っていますが、それも「覆われている」→「未開」ぐらいの字義拡張かと思っていました。
「蒙古」は当然音訳だと思いますが、確かになぜこの文字を用いたか、それなりの理由があるかも知れません。日本では漢民族による蔑称だとする説が流れ、「私たちはこれからもモンゴルを『蒙古』と呼びません」の広告が出たり、なにやら意図があって?運動されています。

_ why ― 2013-05-28 23:04:18

Fujimotoさん、こんばんは!
舌足らずで失礼しました。そうですね。「蒙」は「覆う」という意味から拡張して、⇒隠す⇒ごまかすというふうに変化したのかもしれません。ちゃんと調べればいいのですが、最も信頼していた辞書を引越しをきっかけに手放したので、こういう時はどうにもならなくて歯がゆいです。
蔑称説が日本にあるとは初耳でした。寄り添ってくれるその気持はありがたいのですが、ちょっと大げさかなと思いますね。根拠があるわけでもないでしょうし、仮に蔑称だったとしてももう何百年も前のことで、古い歴史もいいとこですから、いちいちこだわっていても仕方ないことですね。
ちなみにこの言葉の原音は「蒙古」よりもむしろ日本語の「モンゴル」のほうが近いですよ。書き方は全然違いますが、日本語とモンゴル語は母音も文法の構造もけっこう似ているところが多くて勉強する時は多少漢民族より楽かもしれません。

_ T.Fujimoto ― 2013-05-30 22:43:18

whyさん、こんばんは。
もちろん当事者たちの気持ちは最優先すべきですが、何百年もの歴史を重ねて馴染んでいる呼び名を、いまさら字義を穿鑿しなくても良いかと、僕も思います。単漢字には様々な意味が含まれて、組み合わせの数に至っては数え切れないもので、時には正反対のものもあります。やはり使うときの気持ちが、一番大事なのでしょうね。

_ why ― 2013-06-07 22:54:36

おっしゃるとおりで、使う時の気持ちが一番大事なんですですね。
だから、支那そばはなんでもなくても、特定の人が時々シナ人と言っては物議を醸すのはそこが理由なんでしょう。ま、正直、どうでもいいことですけれど。
とは言いながら漢字でもう一つ思い出しました。胡说八道、胡言乱语、胡诹、胡扯、胡来、胡弄、胡编乱造などです。これはもう紛れもなくバイアスがかかっているのでしょう。異文化に対する警戒なのかな、透けて見えるところが笑ってしまうほど面白いですね。

_ T.Fujimoto ― 2013-06-10 23:30:39

whyさん、こんばんは。
胡说八道、胡言乱语......自分が聞き取れない、理解できていないだけかも知れないのに、ですね。

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