ワイセツな枕2012-07-21 22:02:52

 「文芸春秋」から出されている「私の昭和史」を読んでいます。
 「週間文春」創刊30周年を記念しての、読者投稿を編集したものです。

 森本栄さんという方は、東京の雑誌社に勤めていましたが、「内務省という役所があり、なにかといえば国民を締め付けた。刊行物の検閲もここでやった。書店の店頭に、表紙に『削除済み』のハンコの押された雑誌が並んでいた。」と書いています。
 戦時下の話です。

 実際、時局不適で内務省より発売禁止の憂き目にあった書籍も、おびただしい数にのぼりました。

 必ずしも左翼傾向のもの、反戦的なものばかりではありません。
 出久根達郎のエッセイによれば、アーネスト・サトーの「幕末維新回想録」は、「維新の大業が英外交官の寄与による如き箇所」あり、面白からず、削除処分されました。
 陸軍大学出身の林銑十郎が著した「興亜の理念」は、「ソ連不信、日独離間の念醸成の虞あり」で、次版改訂の処分を受けました。
 「皇国精神講座 第十輯 神皇正統記」というまさに時局柄の書もが、皇室に関する記述に不穏当のかどで、やはり改訂を命じられました。

 森本栄さんの回想によれば、あるとき、「花嫁の寝室読本」という絵入りの記事を、検閲課に持参して事前に内閲を受けたそうです。
 挿絵の一枚に、敷ぶとんの端に枕が二つ並び、傍らに電気スタンドがついているのがありました。
 「なんだ、ワイセツな。枕を一つにしなさい!」

 挿絵のうえに紙を貼って、枕一つになりました。