ダビデ王の羽なし矢2010-07-19 01:48:38

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 つぼみさんのブログに興味深いウツボカズラの記事が載っています(http://tubomim.exblog.jp/14154266/)。食虫植物のウツボカズラとその仲間は、東南アジアを中心に点在し、特にボルネオ島がその本場だそうです。
 東南アジア、特にスマトラ、パラワン、ボルネオあたりは甲虫の宝庫としても知られています。巨大なコーカサスオオカブトやオオヒラタクワガタなどが、もし食虫植物と対決したらどうなるか、想像するだけでなんだかおもしろそうです。

 ウツボカズラはマダカスカル島までその姿は見つかっていますが、残念ながらアフリカ大陸のほうには生息していないそうです。残念、というのは、もうひとつの夢の対決の相手が、「虫屋の落とし文」(奥本大三郎)の表紙にも登場しているゴライアスオオツノハナムグリです。奥深いアフリカの熱帯雨林に生息しているこの巨大甲虫は、南米のヘラクレスオオカブトのような長い角を備えてはいないものの、ある意味、ヘラクレス以上に厚重で頑丈そうです。その体長が110mmに達し、世界で最も重い昆虫だと言われています。

 名前のゴライアスは、聖書に登場する大男のゴリアテに由来しています。


 僕が紅顔の美少年、もとい、ニキビ面のブ少年だった頃、なぜか新約聖書に魅せられた時期がありました。キリスト教徒にはならなかったのですが、最初の福音書マタイ伝の冒頭に、アブラハムがイサクを生み、イサクがヤコブを生み、ヤコブが...長々とイエスの家系を説明しているところがありますが、この人名の羅列を音読しているうちに、まるで催眠術の呪文にかかったような感じで引き込まれしまいました。
 アブラハムからダビデ王までが14代、ダビデ王からバビロン捕囚までが14代、バビロン捕囚からイエス・キリストまでが14であることを、マタイ伝は書いています。イエスが由緒正しきユダヤ人の継承者であることを説明するには、ユダヤ人の祖・アブラハム、そしてユダヤ人歴史上唯一の大王国を築いたダビテ王に繋げる必要があったかも知れません。
 マリアは処女のままでイエスを身ごもったので、血統もなにもあったものじゃない、とも思いますが。

 旧約聖書のサムエル記によれば、イスラエル軍と対峙する宿敵ペリシテ軍から、ゴリアテという剛勇無双な大男が進み出て一騎打ちを呼びかけたとき、ただひとり怖じけずに挑んだのが、青年時代のダビデでした。
 ひょろひょろ出てきた若造を、巨人・ゴリアテはたぶん鼻で嗤ったが、そこはなめちゃいけない、弁慶を向こうに回して戦った牛若丸よろしく、こちらダビデも実は秘技・石投げの名手でした。ゴリアテがダビデの投げた石で眉間を割られて倒れたところ、ダビデが飛びかかって、ゴリアテの大きな剣を引き抜いては、呆気なくその首を刎ねたのであります。

 ミケランジェロのダビデ像が有名ですが、その左肩にある布のような物が石投げ器です。石を入れてブンブン振り回しながら、加速したところで、エ~と狙いを付けて投げるわけです。
 ちなみに、ダビデ像が寸糸不掛スッポンポンなのは、旧約聖書に「それらを脱ぎ捨て」と書いてあったからそうです。
 味方軍のみながゴリアテの猛々しさに震えているところ、勇敢にも名乗った若いダビデを、サウル王が自らの鎧を着せました。が、なにしろ元は羊飼い、たぶんそんなものは付けたことがなく、どうも動きづらいのか、結局その鎧を脱ぎ捨てました。いや、脱ぐのは鎧だけでよく、強敵の前にフルチンになるまで脱ぐ必要はまったくないと思いますが。

 ともかく、ダビデが投石の名人であったのは、羊飼いだったためです。
 「英国大使の博物誌」を読むと、モロッコなどで、牧羊犬がいなくても、群を外れそうな羊の前に小石を上手に投げて群を保つ少年少女を、作者の平原毅さんは何十回となく見たそうです。

 石投げと言えば、中国の水滸伝にも没羽箭・張清という名手が登場します。百八星のなかでもほぼ一番最後に登場した人物ですが、その投石の技によって梁山泊の英雄たちがパタパタを打ち落とされる場面は、なかなか印象深いものでした。
 和弓の矢はいまでも矢羽などを付けて射る軌道を安定させますが、もちろん石には矢羽がないので、それで「没羽箭」の二名が付いたかと思います。

 いまひとつ、ダビデとゴリアテの話を対比しておもしろいと思ったのは、かの項羽の逸話です。
 広武山での漢・楚両陣営が対峙していたとき、漢軍に楼煩という騎射のうまい兵士が出てきました。楚の壮士が挑戦して三たび射殺されたのを項羽は大いに怒り、自ら甲をつけ戟をもって挑戦しました。楼煩が射ようとすると、項羽は目を瞑らせて叱呼し、あまりの威勢に楼煩がおののいて、目は視ることもできず、逃げ帰ってしまったそうです。
 さすがは西楚の覇王、マジンガーZの光子力ビームばりの威力です。飛び道具がいつも勝つとは限りません。

 冒頭のウツボカズラに話が戻りますが、ウツボはなにかと思ったら、調べると、靫(うつぼ)だそうです。この食虫植物の花穂が矢を入れる靫の形に似ていることに由来しています。矢が刺さっている風でないので、空っぽの矢巣、ということになるのでしょうか。


 ちなみに、3連休最終日の明日は、子供をポケモンの映画に連れて行く約束をしていますが、ウツボカズラをモチーフにしたポケモンも存在します。上の写真のウツボット、そしてその進化前のウツドンがそうです。
 ポケモンの世界では、「草属性」のポケモンは虫タイプの技に弱いのですが、一応食虫植物なので、こいつらには虫に強い「毒属性」も併せて与えられています。
 あ、そう言えば、ウツドンのさらに進化前のポケモンもいました。名前はマダツボミです。名前の意味はわかりません。まだまだつぼみ(蕾)に過ぎない、ということでしょうか?
 つぼみさんとなんら関係がないのは、むろん言うまでもないです(^^;)