オグリキャップの名を呟く2010-07-05 17:49:41

 大勢の仲間に入るように、稀代の名馬・オグリキャップにも迎えが来ました。

 競馬の歴史上、オグリキャップより強い馬もいたのでしょう。しかし彼ほど「劇的」な名馬は、ほかには見当たらないと思います。
 バブルに沸き、何もかも「劇的」であったあの時代においてさえ、オグリキャップは飛びぬけて、最もドラマチックな競走生活を送っていました。

 地方育ちのゆえ栄光のクラシックに登録がなく、裏街道を驀進していた、噂の転入生の時代。先輩・タマモクロスとの葦毛対決に競馬キチの血潮を沸騰させた最初の秋。酷使と批判されながらも健気に走り続け、奇跡のマイルCS、ジャパンカップ連闘から、最後に力尽きた有馬記念まで、完璧に世間の涙を誘った二度目の秋。そして、もちろん完璧の安田記念から不振に喘ぐ秋、そして有終の美を飾った歓喜のラストランまで、あくまでも波乱万丈の最後の、三年目の走り。オグリキャップは長編の叙事詩、ど演歌、人間くさいヒーロー、伝奇です。

 田舎から上京して、見知らぬ都会で奮闘する自身に投影し、オグリに励まされた、とこぼす若者。くすんだ灰色の毛色とやっけに離れた両目の間隔だけが似ているぬいぐるみを抱いて、おぐりん、カワイイ!と叫ぶ新たな競馬ファン。こんなむちゃくちゃなローテーションをオレは認められないと否定しながら、酔ったときだけ、あいつはすごいや、と嘆くオールドファン。どの口で語るオグリキャップもすべてではないですが、どの目に映るオグリキャップも真実でありました。

 オグリキャップ、いまは、その名を呟くだけです。