工場2010-06-24 00:01:28

 目的を追求してはならないケースが、どうやら、世の中には時々あるようです。


 「市」の文庫所長として招聘されたローベルト・リンドホフは、「市」でさまざまな不可解の光景や出来事を目撃しました。
 そのひとつ、特にローベルトを困惑させたのは「工場」の存在です。

 「市民」の大多数が暮らす地下には、厳密な規格に基づくサイコロ状の人工石を生産する工場があります。昼夜を問わず、大量に生産し続けたこの人工石の用途は、工場長に聞いても、わからないという答えが返えてきただけです。

 しかし、あまり人が暮らしていない地上に、もうひとつ工場があることをローベルトが見つけました。地下の人工石工場に原料の石粉を供給するこの地上の工場は、石粉を作るために、地下から運び込まれた、きれいなサイコロ状の人工石を砕き続けている......

           (ヘルマン・カザックの「流れの背後の市」より)