大食いの奇跡2009-05-20 22:18:41

 いま「イスラム聖者 ~奇跡・予言・癒しの世界」(講談社現代新書)を読んでいますが、イスラム聖者が行った「奇跡」を、スブキー(?~1370)が25種類に分類した、という話が出ています。
 死者の再生、死者との会話、治療などと並び、「異常にたくさん食べられる能力」というのが、分類の第17項にあります。

 確かに古来の英雄に大食いの伝説が欠かせません。
 「シャー・ナーメ」の英雄・ロスタムなど、大人5人前の肉とパンを離乳食にしていたそうです。

 そうすると、N.Y.でのHot Dog Eating Contestで6連覇した小林尊、大食い大魔神の異名を持つジャイアント・白田、涼しい顔であくまでも美味そうに食べ続けるギャル・曽根など、テレビなどで呆れるぐらいの大食いを見せる現代フードファイターたちは、奇跡を実演している現代の聖者・英雄なのでしょうか?


 文化14年3月、江戸は両国柳橋で行われた「大酒大食の会」に関する記録が「兎園小説」に残って、青木青児の「抱樽酒話」に引用されています。

 見ると、制限時間はわかりませんが、例えば「飯連」の部門では、三河島の三右衛門という人が飯68杯と醤油2合を平らげ、浅草の73歳の和泉屋吉蔵の記録は飯58杯と唐辛子54です。
 ほか、「蕎麦組」では二八そばを57杯やら63杯やらを食べた豪の者が現れたり、「菓子組」、「酒組」ともども、目を疑いたくなるような数字が残されています。

 青木青児先生の感想は、「呆れ返った連中であるが、太平の楽事、羨むべし。」
 「僅かばかりの配給米に露命をつなぎ、たまさかの配給酒か闇酒で咽をうるおし、一きれの羊羹でああ甘かったと舌鼓を打つ当世から考えると、まるでうそのような話。」


 そのウソのような話が、苦難の時を経て、いま再現されています。

 世界中に目を向けると、相変わらず多くの人間が食糧難に苦しんでいます。鯨呑牛飲を自慢する大食いは、正直、見て気持ちいいものではないし、奨励する気もさらさらないですが、少なくともひとつだけ、現代の日本は平和でかつ豊か、その現れだと言えましょう。
 多少の不況があるぐらい、本当に苦しい時代を生きた先哲たちから見れば、いまもまだまだ羨むべし「奇跡」の時代なのでしょうね。