【読後感】「インドで暮らす」 石田保昭2007-02-08 00:36:27

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 近所の「復活書房」の100円セール(http://tbbird.asablo.jp/blog/2007/01/10/1103792)でゲットした本のなかの1冊です。

 作者は1958年から1961年、ニューデリーの外国語学校で 3年間日本語の講師を勤めていた人で、この本はインドでの生活体験を綴ったものです。

 軽いタッチの異国見聞録では、しかし、決してありません。
 どうしようもない暗さと重さが全編を貫いているのですが、ただ北インドの酷烈な気候のせいではありません。
 その根底にあるのは、なによりも、その時代のインドでの貧困、そしてその貧しさゆえに生じた様々な社会問題です。

 なにしろ、到着早々列車で朝食を食べると、ホームに面した窓ぎわに乞食の老女が、ほこりにまみれたボロ切れをまとい、窓からしわくちゃな手を突っ込んで、、「バーブー・ジー、バーブー・ジー」(旦那さん、旦那さん)と訴え続けたそうです。
 作者は「それを見ながら、朝食を食べるのが苦痛だった」が、老女が去ったあと、すぐに別の男性の乞食がやってきて、同じように歌うような調子で「バーブー・ジー、バーブー・ジー」を続け、「その声を聞くと、私が自分がいやになるのか、乞食がいやになるのか、インドがいやになるのか、わからなくなるのだった」。

 作者は決して高みからの見物ではなく、自らも安い給料で働き、生活に苦しみ、様々な社会問題に直面していました。
 高給をもらう官僚は民の苦しみがわからず、絶対多数の貧しい人々も、その多くは、わずかなお金のために不正を働いたり、騙し合いしたり、「自分と家族のために他人との言葉のやりとりもとげとげしかった」そうです。

 作者は「あとがき」で、しかし「インドの人びとも、われわれと同じ人間なのだ」と記しました。
 あの時代のインドは、そのような環境だった、だけかも知れません。
 「孟子」の言葉ですが、「富貴不能淫、貧賤不能移」は、誠に難しいことだとあらためて感じました。