【読後感】「御書物同心日記」出久根達郎2007-01-10 02:13:05

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 年末年始、近所の「復活書房」で大規模な100円セールをやっていたので、散歩がてらに何冊かの古書を引き取らせて頂きました。
 そのなかの1冊、というわけ、ではありません。

 売り場のほぼ半分が100円セール用で、100円セールでない反対側の半分も、一応適当に見回ったが、「続・御書物同心日記」というタイトルがふっと目に入りました。
 あっと、目を見張りました。
 そう、思い出しました。そのようなタイトルの本を前に購入して、確かに未読のまま、どこかに、ほったらかしていたような気がしました。

 家に戻って探してみれば、はたして、講談社文庫から出ている「御書物同心日記」が、ありました。その「続編」の前編にあたるものと思われる書籍(ややこしい言い方だが)は、本棚の裏のほうに、ぽこんと落ちてました。
 
 懺悔の気持ちも多少あり、新たに入出したものよりも、こちらを先に読みました。
 これが、良かったのです。


 江戸時代の紅葉山に、将軍家代々のご蔵書を保管する、紅葉山御文庫という場所がありまして、この小説の主人公・東雲丈太郎や同僚の白瀬角一郎などはそこで働く御書物同心、すなわち、将軍家ご蔵書を守る、整理する仕事を職とする人たちです。

 時代背景は江戸の世、御書物同心は基本的に世襲の武家ですが、この小説には、無敵な神技を見せる剣士も、神出鬼没の忍法を操る伊賀者も、野心に満ちた悪代官も、時代小説によくいるキャラは一切出てきません。
 同心たちにとって、最大の行事は土用のお風干し、つまり本の虫干しだったりします。

 しかし、どんな仕事もその仕事でしか味わえない喜びがあると、作者は言います。
 本好きな同心たちは、もしものことがあるとお咎めを受ける緊張のなかも、秘蔵な珍本を拝める機会を、大いに楽しみにしていた様子でした。

 ちょっとした謎ぽい伏線を残し、なるほどそうかと合点させて、また思い切り裏切ったりする悪戯ぽさ。
 和事でも荒事でもなく、派手に見栄もきらず、同心たちとその周りの人々の何気ない日常の、力を入れたり抜いたりする描写力。
 素晴らしいとしか言いようがありません。

 その作者・出久根達郎さんの本職は、知る人ぞ知る、古書店の店主です。